「イスラエルは回復が遅れれば、周辺国から隙を突かれる可能性もありますから、危機意識が強かったのでしょう。イギリスは国内にワクチンを開発できる環境を維持してきたのが大きい。さらには訓練を受けたボランティアがワクチンを打てるようにするなど、ワクチン接種に向けて積極的に動いている。政府の危機意識の強さに日本との差を感じます」

 今後、日本では感染者数はどう推移するのか。ビッグデータに詳しい横浜市立大の佐藤彰洋教授のシミュレーションによると、東京都では5月に入ると1日あたりの新規感染者数が500人に達し、累積感染者数は現在の12万6千人から、5月28日までに14万9千人にまで増加すると予測している。

 関西ではさらに増加に拍車がかかりそうだ。大阪では、5月に入ると1日あたりの新規感染者数が800人を超え、累積感染者数は約6万人から同9万4千人にまで増加すると予測する。しかも最近の実測値を見ると、9日前後からは、シミュレーションを上回る数で推移している。兵庫県、京都府でも同じ傾向が出ているという。佐藤教授はこう見る。

「大阪、兵庫では感染力の強い新型コロナウイルスの変異株の感染が多く報告されており、蔓延が懸念される。変異株が原因だとすると、現在感染拡大が落ち着いている東京や神奈川でも現在の生活スタイルでは拡大が防げない可能性がある。変異株が原因なのか、生活スタイルの問題なのか、特定するのが急務だと思います」

 12日には、東京の一部地域などで「まん延防止等重点措置」の適用が始まり、同措置が適用されている地域は6都府県に拡大。経済への打撃はますます深刻化しそうだ。先の政府関係者はこう語る。

「G7諸国並みに接種が行われてさえいれば、飲食店はもとより経済全体がここまで疲弊したり、生活に困窮する人があふれたりすることもなかったはず。これは、ひとえに菅政権、河野大臣の失敗です」

 変異株によって今後も世界で感染者数が増えれば、ワクチン獲得競争はより一層激しくなると見られている。感染者数が増加すれば、東京オリンピック・パラリンピックの開催に強い不安を残す。改めて、日本政府の本気度が問われている。

(文/AERA dot.編集部・吉崎洋夫)

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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