世の中には多様な偽物が溢れているが、真贋の境目は存外に曖昧かつ流動的だ。そのことを、本書はさまざまな事例を取り上げながらジャンル横断的に説いてみせる。
ウォーホルのシルクスクリーンの原版を使って別人が新たに刷った作品は、ウォーホル作品と呼べるのか。クオリティの高さからそれ自体が収集の対象となってしまう贋作をどう考えるのか。合成ダイヤモンドと、倫理的な問題が付随する天然物はどちらがより好ましいのか。劣化を防ぐため最初から非公開とされた洞窟の壁画の、観賞用に精巧に作られたレプリカは、単なるまがい物なのか──。本書が掲げる問いかけは、どれも刺激的で含蓄に満ちている。
事物の真正性が、歴史的経緯や文化等に大きく左右されていることがよくわかる。コンテクスト抜きで真贋を見極めることはできないのだ。
(平山瑞穂)
※週刊朝日 2021年2月26日号