写真家・柳本史歩さんの作品展「Your Village」が2月18日から東京・新宿のオリンパスギャラリー東京で開催される。柳本さんに聞いた。
インタビューの最中、柳本さんは漫画家・つげ義春の名を口にした。(また、つげさんかあ)と思う。これまで何人の写真家からこの人の名を聞いただろう。どうやら、つげの作品は写真家、特にひなびた地方の風景をあてもなく撮り歩くような写真家の心に刺さるらしいのだ。
柳本さんは大学生のころ、北海道にある父親の実家に遊びに行く途中、「寄り道をして写真を撮り始めた」。青森県・下北半島を経由してマグロ漁で知られる大間から津軽海峡を渡る旅だった。
「つげ義春がイラストに描いたすっごく小さな集落が下北にあるんです。それを見にちょっと行ってみようかなと。で、行ったら『ほんとうにいっしょ』だった。青森って、そういう集落が多くて、あちこち行きました」
20年前から撮り続けている写真シリーズ「アイル・ビイ・ゼア」では青森県のほか、北海道、山形県、新潟県、岩手県の小さな街や地域を訪ね、ありのままの姿を写真で持ち帰ろうと試みてきた。
今回、写したのは岩手県洋野町。「青森県との県境の町ですね」と、柳本さんは言うのだが、ピンとこない。
「NHKの連続テレビ小説『あまちゃん』のロケ地。潜水土木科が出てきたじゃないですか。あの高校(種市高校)があるところ」と説明され、宇宙服のような潜水具を身に着けたヒロインの顔が浮かんだ。
三陸の長い海岸線のなかでは珍しく湾がない半面、天然のウニやホヤ、アワビなどが豊富に獲れ、特にウニは県内随一の水揚げという。
「いまの時期は『ふのり』っていう赤い海草の採集がさかんなんです。潮が引くタイミングを知らせるアナウンスが町内に流れるんですよ。その時間に合わせて漁協のおじちゃん、おばちゃんが、ばーっと採りに行く。それを見ているのがすごく面白くて」
「じゃあ泊まっていけよ」と。そのままずるずると家に入り込んで
そんな調子でインタビューは始まったのだが、作品を見せてもらったとたん、言葉に詰まった。
写真に写っていたのは酒屋の店内。小さな町の「酒のスーパー」といった趣なのだが、客の姿はなく、店主と思われる男性が画面の隅でレジスターを前にうつむいている。
「すごい酒の品ぞろえですね」
われながら、どうしょうもないコメントだ。まるで予想とは違う展開に動揺していた。
次の写真で目に飛び込んできたのはヤギ。収穫を終えた寂しげな稲田を背景に2頭のヤギがこちらを見ている。人影はまったくない。
「この辺ではヤギを放し飼いにしているんですよ」と、柳本さんが説明する。
「食べるんですか?」「いや、食べないと思いますよ」
作者を前にどうでもいいような会話で情けなくなる。