2020年は、新型コロナウイルス感染症の拡大という、私たちにとってまったく想定外なことが起こりました。それによって、「あるものでまかなう」という生活を送らざるを得ない人も多かったのではないでしょうか。手に入る食材で料理をする、家に眠っていたものを工夫して使う、今いるところで楽しみを見つけるなど、そのような状況が世界中に訪れたのです。
書籍『あるものでまかなう生活』の著者で食品ロス問題ジャーナリストの井出留美さんは、「『あるものでまかなう』は、コロナ時代の新たなスタンダードとなる生き方です」(本書)と述べます。本書は、これまで捨てていた食べ物や眠らせていたモノに新たな命を吹き込み、創意工夫を生み出し、暮らしを楽しむためのコツを教えてくれる一冊です。
とりわけ具体的なTipsを学べるのが、第2章と第3章です。第2章「これからは『あるものでまかなう』食」では、食品ロスを生み出さないためのさまざまな方法が載っています。コロナ禍に東京都が一時、「買い物は3日に1度」と提唱しましたが、ある人はこれを守ったところ、食費が3割減ったのだとか。まずは、むやみに買い物に行って余計なものを買うのではなく、足りないもの・必要な量だけを買うこと。こうすることで心身もラクになり、すがすがしくなるといいます。
さらに、「おうちサルベージ」なるワザも紹介。これは、わざわざ食材を買いに行かず、冷蔵庫にあるもので何がつくれるかを考えて料理するというもので、食品ロスが減ったり食費が減ったりといった良さがあります。
もうひとつ、賞味期限に関する考え方も大切です。「お茶は賞味期限が切れても、何種類かのお茶を焙じることで香りのよいほうじ茶になる」「缶詰や手延べそうめん、熟成食品などは賞味期限切れのほうがおいしい」「日本では賞味期限切れの食品を扱うスーパーが全国にいくつもある」などの情報も紹介。賞味期限はあくまでも「おいしさの目安」であり、食べ物を捨てる理由にはならないことに気づかされます。
第3章「これからは『あるものでまかなう』暮らし」は、食よりも幅を広げ、私たちが暮らしの中で実践できる考え方やコツを教えてくれます。大事なのは「使い切る、修理して使う、違う用途にアレンジする」といったこと。こうすることで、無駄だと思っていたモノが新しい命を取り戻していくといいます。
たとえば、包装材。竹の皮でおにぎりを包んだり、経木(きょうぎ)と呼ばれる薄い木の箱にお弁当を詰めたり。リサイクルできるのでプラスチック容器よりも環境への負荷を軽減できます。このほか、いろいろなものを包める風呂敷は、エコバッグとしてはもちろん、旅行や衣替えにも使えてまさに万能。昔から愛用されてきた包装材には、それなりの理由があるんですね。
ほかにも、今ある資源を最大限に使う例として、間伐材でつくった家具や封筒、名刺、木製ストロー、タンブラー、廃棄した果物でつくったお菓子や化粧品などが挙げられています。海外に目を向けてみると、スウェーデンではシーツやタオルなどのリネンを修理して親から子へと受け継いでいったり、フランスでは本を修理して読み続けたりといったこともあるそうです。
こうして見てみると、私たちの意識や心がけで変えられることがたくさんありそうです。「『何を選ぶか、何を買うか』は私たちが持つ大きな権利であり、また義務でもあります」(本書より)と井出さん。限りある資源、限りある命を大切にするために、私たちに何ができるのか。コロナ渦となった今、これまで以上に私たちはそうした問題と真摯に向き合うことが求められているのかもしれません。
[文・鷺ノ宮やよい]