芸術家として国内外で活躍する横尾忠則さんの連載「シン・老人のナイショ話」。今回は、イラストレーターと画家について。
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「イラストレーターと画家の違いは何でしょうか?」というお題をいただきました。
これは簡単です。僕はこの両方の職業の経験があります。最初はイラストレーターとしてスタートしましたが、その途上で画家に転向した者ですから、自分のことを書けばいいわけです。
僕はイラストレーターという認識のないままイラストレーターになったような気がします。1956年頃(20歳)です。当時はまだイラストレーションという言葉はグラフィックデザイン業界でしか聞かない言葉で、新聞広告などのカットの別名だったように思います。従ってまだイラストレーターという職種は存在していませんでした。
まあ、強いていえば挿絵画家のことですが、でも挿絵とイラストレーションは何となく分離して考えられていました。1960年に僕は上京して、日本デザインセンターというデザイン会社に入り、この頃同僚の宇野亜喜良と別のデザイン会社に勤めていた和田誠とは特に親しくなるのですが、僕も含めて3人共、グラフィックデザイナーです。その作風がイラストレイティブなところから、デザイン、広告業界からは3人共イラストレーターと呼ばれるようになりましたが、3人共、そう呼ばれるのにかなり抵抗があり、われわれはあくまでもグラフィックデザイナーと主張していました。全身全霊イラストレーターではなく、われわれは一卵性双生児で、自らの中のもうひとりの存在をイラストレーターと、仕方なく呼んで、対外的には二刀流を演じたのです。
従来の挿絵画家は、かつて画家志望者が大半だったように、イラストレーターの源流はグラフィックデザイナーなのです。現在のイラストレーターは最初からイラストレーター志望者ですが、60年代初頭のイラストレーターは、イラストレーション草創期に誕生した者で、3年前に亡くなった和田誠はあれだけイラストレーターで名が通ったにもかかわらず、彼は最後までデザイナーと主張しました。それは宇野亜喜良も僕も同じです。それはデザインよりイラストレーションを下位に見ているのではなく、イラストレーションの表現がすでにデザイン理念に裏付けられているという考えから、従来の挿絵画家とは区別するべきだと、考えた結果です。