没後10年を迎えた今年、毎月のように井上ひさし作品が復刻されたり新たに編まれたりしているが、本書は副題に明らかなようにプライベートな井上ひさしを紹介している。

 まるで青春小説を読んでいる趣があるのは、1956年4月、上智大学文学部外国語学科のフランス語科に入学した筆者の同期生十数人の中に井上ひさしがいたことに始まる。

 そして小説でもお馴染みの「モッキンポット師」のモデルとされるポール・リーチ先生らの思い出やら、終生つづいた上智のゆかいな仲間たちとのエピソードが語られる。

 亡くなるまで54年にわたって身近に友情を保ちつづけられたのは奇蹟といえよう。

「荘六さんはいわば『心友』ともいうべき存在」とひさし氏は言う。信頼できる親しい友に納まらない「心」を入れたかったという思いが伝わってくる。(鈴木聞太)

週刊朝日  2020年9月11日号