人に仕事を任せるとき、「なんでできないんだ」とイライラしたことはないだろうか。
仕事を任せた初期は仕方ないとして、何年経ってもうまく仕事が進められないと、「なぜここまで不器用なのか?」と苛立ちを感じやすい。仕事が思うように進まないときに「もういいよ、俺がやるから」とため息をついたことがある人もいるだろう。
こうした状況を総称して「俺がやったほうが早い病」と呼ぶことにする。チームで仕事をしていく以上、この病は早急に治療したいところだ。方法は3つある。
●特効薬(1)「俺がほめたほうが早い」
企業活動の多くはチームワークだ。仕事のできる人が「俺がやったほうが早い」とイライラして周囲を睨みつけながら仕事をするより、自分がやったほうが早い場合でも「いいね、すごくいい」と言いながら、メンバーのやる気を引き出すほうが効率的だ。
もちろん、仕事が全然進んでいない人や明らかに効率が悪い人に対しても「いいね、すごくいい」と言っていると、本当に成果を出している人のモチベーションを下げてしまう。「まったく理解していない人が適当にほめている」状況は危険だ。
だが、ほめるべき理由があるときはしっかりほめよう。ほとんどの人は「ほめられると伸びるタイプ」なので、プラスの効果しかない。
メンバーがモチベーションを高く保ち、ひとりひとりが周囲をもっと驚かせてやろうと仕事をする。「チームとしての成果」と「個人としての成長」、このどちらを見ても、ほめたほうが圧倒的にいい。
むしろ、ほめて伸びた人が自分より成果が出る状態になったときに「この分野はもうお前にはかなわないな……」「そんな……、先輩のおかげです」というドラマのような美談が展開されることを目指そう。チームの生産性がさらに上がる。
「俺がやったほうが早い」と思っている人は、まずは周囲のほめるべきところをほめ、人の成長を温かい目で見守ることから始めてほしい。
●特効薬(2) 俺が教えたほうが早い
自分が持っている技術は、惜しみなく人に伝えるべきだ。「俺がやったほうが早い」は何かしらのコツなりテクニックの結果としての話だ。「俺のように早くできる」勘所を見極め、それを周囲のメンバーに伝えると、「俺がやったほうが早い」程度が弱まっていく。
よく「魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教える」という話があるが、それと似ている。仕事の進め方をメンバーに見せると、周囲に自分の能力がインストールされていく。
アプレッソ創業初期は、社内にプログラマーと呼べる人がほとんどいなかったので、このやり方でプログラマーを次々と育成していった。ある程度のレベルまでたどり着いた人がまた次の世代に自分の技術を伝える。これを繰り返していくと、時間を経るにつれてどんどんチームが強くなっていく。
仕事の能力のうち、移植できるものはどんどん他の人に手渡すべきだ。ノウハウを明かさないことで「自分の居場所」を作る人もいるが、会社全体のパフォーマンスという視座から考えれば、非常に近視眼的だ。その態度はいかがなものかと映るケースが少なからずある。知識の囲い込みを続けた結果、会社全体の競争力が低下し、会社という船そのものが沈没してしまったら元も子もない。