日本に数多くあるラーメン店の中でも、屈指の名店と呼ばれる店がある。そんな名店と、名店店主が愛する一杯を紹介する本連載。横浜市・保土ヶ谷で行列を作る人気店主が愛するラーメンは、上大岡エリア(横浜市)を10年以上支える先輩の作る、自家製麺が主役の醤油ラーメンだった。
■「人が使っていない食材を」 神奈川1位のラーメン店の信念
グルメサイト「食べログ」で神奈川県のラーメン店1位のお店をご存知だろうか。「櫻井中華そば店」(3.99点 7月1日現在)である。JR横須賀線の保土ヶ谷駅からほど近くの国道1号線沿いの商店街の中にあるお店で、2017年のオープン以来、その人気はうなぎ上りだ。
神奈川といえば濃厚な豚骨醤油が特徴の「横浜家系ラーメン」が有名だが、その一方であっさりとした淡麗系のラーメンを提供する「支那そばや」「くじら軒」「中村屋」などの名店の影響から、淡麗系のお店も数多い。ここ数年トレンドになっている鶏清湯(とりちんたん)は、地鶏や銘柄鶏の丸鶏・ガラなどを贅沢に使い、鶏の旨味をふんだんに引き出したスープに、生醤油を使った醤油ダレを加え、柔らかな細麺を合わせるのが王道だ。
だが、今回取材した「櫻井中華そば店」は淡麗系の中でも独自の路線を突き進む。スープは信州黄金シャモを中心としていて鶏の旨味が強いが、合わせるのは自家製の中太手もみ麺。他にない一杯なので食べた時の感覚は新しいが、どこか懐かしさも感じる。王道の鶏清湯と似ているようで全く違うアプローチには秘密があった。店主の櫻井啓吾さん(39)は語る。
「当時修業していた『麺創研 かなで』の社員旅行で、福島の白河にある『とら食堂』に連れて行ってもらったんです。鶏の旨味たっぷりのスープに中太麺を合わせた一杯が出てきて、とても感動しました。淡麗のスープにも中太麺が合わせられることをそこで知ったんです。実は5軒食べ歩きした後に行ったのですが、スープまで全部飲み干すぐらいの美味しさでした」
福島のご当地ラーメン「白河ラーメン」との出会いは櫻井さんのラーメンへの思いを大きく突き動かした。「櫻井中華そば店」のラーメンは、淡麗系をベースにしながらも中太麺を合わせる白河ラーメンのエッセンスを取り入れている。流行を追うラーメンの中に筆者がどこか懐かしさを感じたのも、白河ラーメンの面影を感じたからなのだ。