表紙には「bbp」。それぞれの文字の丸くくりぬいた部分には、ザ・ビートルズ、ボブ・ディラン、エルヴィス・プレスリーの顔写真。片岡義男『彼らを書く』は、彼らのDVD作品についての評論である。作品のジャンルはさまざまで、コンサートのドキュメンタリーもあればゲスト出演したテレビ番組、俳優として出た劇映画、題材となった映画などもある。合計31作品を現在見て、片岡義男はこの本を書いた。
1939年生まれの片岡は彼らをリアルタイムに見ている世代だが、ここでは自分自身の思い出語りを最小限にして、DVDの内容とそれについての評価を淡々と述べる。
たとえばザ・ビートルズが出た「エド・サリヴァン・ショー」について。音楽や会話の合間に入るCMについて、それがどんな商品なのかを片岡は説明する。ザ・ビートルズの音楽とは関係ないように見えて、実はこの人気テレビ番組が流れた時代のアメリカ人の生活がたくみに表現されている。そして、イギリスから来たザ・ビートルズが、どのように受けとめられたのかも。
この「エド・サリヴァン・ショー」についての章に、片岡は「ご家族みんなのザ・ビートルズ」と題名をつけている。章の最後、エド・サリヴァンの生涯を簡単に紹介したあと、ボブ・ディランについてのエピソードを付け加える。ある歌を歌わないようにエドと放送局に言われたディランは「即座にスタジオをあとにし、番組に出演することはなかった」と結ぶ。
片岡義男は、物や出来事を描写するだけで批評として成立させてしまう、まるで魔法使いのような人だ。
※週刊朝日 2020年7月3日号