角野さんを幼少期から支えてきたのが、ピアノ指導者の金子勝子さんだ。牛田智大氏など多くの著名な若手ピアニストを輩出した金子さんに、ピアニストになるために必要なことや、音楽大学に行かずに音楽をすることについて聞いた。

――はじめに、先生が開発した練習メソッド「指セット」について教えてください
 単に指をよく回らせるための教材は世間にたくさんあります。でも5本の指は付き方が一本一本違う上に、実力の差があるわけで、その状態のままだと何回も弾けば弾くほど実力の差が出てきて下手になってしまうのです。この問題を解決する教材が今までなかったので、各指の実力差を縮める「指セット」というメソッドを私が作りました。もっとも、角野くんは生まれながら良い指をしていたので、「指セット」をそれほどやる必要はなかったのですが。

――角野さんはどのような生徒でしたか
 昔からピアノ一筋というよりは、音楽全般が好きという子でしたね。中学に入学した時、親御さんから「この子は勉強の道の方が合っていると思うので、ピアノはそこそこにお願いします」って言われたんです(笑)。本人もクラシック音楽以外に編曲や即興、ロックバンドなんかやったりして、興味の幅が本当に広かったですね。ピティナピアノコンペティション特級で優勝したのを見て初めて、彼はピアニストになれる、と思いました。

――東大や東大院に入ってから、角野さんの演奏が変わったと思うことはありますか
 より考えてから音を出すようになりました。中高生の時は、何も考えずにぱらぱらと弾いていることがありました。そんな時、左手のこれは何を意味しているか、フレーズの中でこのハーモニーはどの方向性を帯びているのかなどと聞くと、角野くんの答えは私が考えていたことに、いつもぴたりと合っていました。音楽は彼の中に内蔵されているのだけど、出し方が分からなかったわけですね。今でも、よく聞くと左手で出す音が平坦になっていたり、レガートにもう少し内容がほしいと指摘することはたまにありますが、ハーモニーの方向性や連続音の差異などの表現の仕方をよく考えて弾いていると思います。大学院で研究する上で、音楽ってこういうことなんだなということが分かってきたのでしょう。

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