――角野さんは、今でも音大コンプレックスがあると言っていますが
音大コンプレックスなんて感じる必要はないですよ。確かに音大には切磋琢磨できる環境が備わっているという点では良いですが、ピアニストになるに当たって何より重要なのは本人の資質と努力、そして環境です。今回も江口玲先生(東京藝術大学准教授、ジュリアード音楽院ピアノ科出身。ニューヨークと東京を行き来しながら作曲活動を行う)の目にとまり、角野くんは共演させていただきました。角野くんは資質という点では天才的なものがあり、楽曲に対する理解の速さや、リズム感、音色感、バランス感覚、暗譜力、音楽的な頭の良さを持ち、そして中高時代にドラムをたたいていたためかリズム感も抜群です。私は大学教員を引退した後時間的な余裕が生まれたので、角野くんのような優秀な門下生により力を注ぐことができました。現在リサイタルも多く持っている彼には週1回2~3時間のレッスンをしています。時々外来の名教授のレッスンなどを入れることも大切だと思います。
――音大に行かなくても、良いピアニストになる環境は整えられるということですか
もちろん、王道は音大に進学することですが、諸事情でその道を選ばなかった、選べなかった人の道が必ずしも閉ざされるわけではないということです。
――角野さんは、人間による演奏と区別のつかない機械による演奏が可能になるのではと考えていますが、先生はどう思いますか
私は不可能だと思いますね。芸術というのは、人間が創り出すものですから。作曲家と演奏者の人生が演奏に反映されているからこそ、音楽は美しい芸術となるわけです。角野くんの研究が今後どうなるかは、楽しみに待っていることにしましょう(笑)。
○金子勝子(かねこ・かつこ)さん(ピアノ指導者)/国立音楽大学ピアノ科卒業。昭和音楽大学・大学院ピアノ科教授などを経て、現在社団法人PTNA(全日本ピアノ指導者協会)理事・運営委員・指導法研究委員会委員長。
(構成/東京大学新聞社・円光門)