――2018年9月からは半年間、フランス音響音楽研究所 (IRCAM)に留学されました
私が所属している原田研究室(当時)は機械学習の研究を行っているところなのですが、音に特化しているわけではないので、教授からフランスで自分の専門を深めてみればどうかというお話をいただきました。フランスでは演奏家や作曲家といった実践者と工学研究者などの理論家の協同作業を見ることができて、とても刺激的でした。日本の音楽界では実践は音楽大学、理論は一般大学とくっきり分かれていますが、不思議に思いますね。分かれずに一体となっている方が、双方にとって面白いのではないでしょうか。
――たしかに、日本では実践者を目指すならば音大に行く傾向が強いですね。イェール大学など海外の総合大学では、学内に音楽学部があって、演奏家や作曲家の養成が行われています
あいにく高校生の時はそのような学部の存在を知りませんでした。知っていたら進学していたかもしれません。
――研究の最終的な目標は
音楽の本質は音そのものだろうか、それとも音を創り出している人間なのだろうか、という問いを突き詰めたいです。ぼくは前者だと思うんです。会話相手が人間ではなく機械であることを見破れるかというチューリングテストと同じように、演奏が機械によるものか、人間によるものかというテストをして、区別できなければ音楽の本質はただ音の構造だということになるじゃないですか。楽曲を純粋な記号としてモデル化することで人間的なものを全て排した時、音楽にどのような表現が生まれてくるのかということに関心があります。
――今後の展望は
音楽を主軸に据えた活動を行っていこうと思っています。ただ、だからと言って研究をやめるつもりはなくて、むしろ音楽×AIの研究は自分にしかできない音楽活動をする上で大きな武器になり得ると思っています。実現できるかはわかりませんが既にいくつかアイデアもあります。大きく見れば全てが表現活動であるような気持ちです。
そんなことを今は考えていますが、もしかしたら1年後にはまた考えが変わっているかもしれません(笑)。でも僕は今できることを、ただ全力で頑張っていきたいと思います。
○角野隼斗(すみの・はやと)さん(ピアニスト)/2018年東京大学工学部卒、20年情報理工学系研究科修士課程修了。幼少期から国内外のピアノコンクールに入賞し、2018年ピティナピアノコンペティション特級グランプリ、及び文部科学大臣賞、スタインウェイ賞受賞。19年リヨン国際ピアノコンクール第3位。多くのリサイタルを展開し、これまでに国立ブラショフ・フィルハーモニー交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団オーケストラと共演。現在はYouTuberとしても活躍している。