――しかし、2018年には東京藝術大学などトップの音大生を差し置いて、ピティナピアノコンペティション特級でグランプリを受賞しました

 はい、そのおかげで、音楽関係の色々な人たちに出会うことができましたし、共演やリサイタルのお話も多くいただきました。また、フランスの世界的なピアニストであるジャン=マルク・ルイサダの友人の作曲家が演奏を聴きに来てくれて、それがきっかけで後日フランスでルイサダのレッスンを受けることができました。

――東大に入ってよかったことは

 東京大学ピアノの会に入ったら、クラシック音楽に情熱を注ぐ人たちに多く出会って、刺激を受けました。あと、東大POMPというサークルで引き続きバンド活動をしたのですが、こういう経験って音楽大学では得られなかったと思いますね。金子先生にも、「あなたは音大生よりも楽しんでピアノを弾いてるね」って言われます。

――演奏活動の傍ら、情報理工学系研究科に在籍していますが(取材時)、どのような研究をしていますか

 主に機械学習を用いた自動採譜の研究をしています。まず、音源データをMIDIデータという抽象化・記号化された情報に変換します。採譜はMIDIデータを楽譜に還元することでなされるわけですが、正確な採譜がなされるためには、音源データとMIDIデータの差をできるだけ縮めなければいけません。そこで、MIDIデータを再生した際の音源データと、元の音源データを比べて、データ変換時のパラメーターをどう調節すれば両者の差は縮まるのかということを、人工知能に学習させています。

――研究の意義は何だと考えますか

 まず、聞いたものを楽譜にするシステムを構築することには一定の需要があると思います。また、メガバイト単位の音源データをキロバイト単位のピアノロールに還元できれば、それだけ情報量の濃度が高くなるわけです。音楽面に関して言えば、楽譜は基本的に平均律を元に作られているので多かれ少なかれそれに縛られますが、先入観のないコンピュータがピアノロールの表記を元に演奏、作曲すれば、12平均律の枠組みに慣れきった人間とは異なり、いずれ音楽を新たな次元に到達させるのではないかと考えます。

――研究のアイデアが演奏に生きることは

 ありますね。私は自動採譜だけでなく自動編曲の研究も行っているのですが、オーケストラをピアノに編曲する時に、弦楽器のレガートを、打鍵したら音が減衰していくピアノでどう表すかという問題があります。弦楽器のダイナミクスをピアノで近似するには、ピアノで一音が出されてから減衰するまでの時間を考えて、つなげれば良いということが分かりました。このようにして、音源データの細かいダイナミクスに着目することで演奏のヒントを得ることがあります。

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