この店で働く杉沼昌美さん。「こういうときこそおいしいラーメンを食べてもらって喜んでほしい」
この店で働く杉沼昌美さん。「こういうときこそおいしいラーメンを食べてもらって喜んでほしい」

 早速、杉沼さんが勧める「元祖はまぐり泡ラーメン」をいただく。スープの表面がクリームシチューのように白いソースで覆われている。聞くと、新鮮なハマグリのエキスだけで作ったエスプーマ(泡)というものらしい。一口すするとクリーミーな口当たりのなかに、濃い魚介のうま味を感じる。この泡が、あっさりした塩ベースのスープと麺に混ざり合い、非常に美味だ。

 「大漁まこと」はもともと渋谷にあったが、2015年に閉店。その後、移転先を探しながら復活を期していたが、約5年間目途が立たずにいた。だが、新型コロナウイルスの影響で、活気のない豊洲市場を目の当たりにした店主が、「付き合いのある漁師や魚介関係の生産者、仲卸の方々のために少しでも力になりたい」と決意。今年4月21日、水道橋で再オープンした。店は急造で別の居酒屋を間借りしたため、外から見るとラーメン店だとはわかりづらい。経営の先行きが見通せないため、“期間限定”での営業だという。
 
「やっぱり、通常の水道橋とは人の数が違います。でも、こういうときこそおいしいラーメンを食べてもらって喜んでほしい。これからどうなっていくかはわかりませんが、頑張ります」(杉沼さん)

「元祖はまぐり泡ラーメン」。クリーミーな口当たりに、濃い魚介のうま味が美味だ
「元祖はまぐり泡ラーメン」。クリーミーな口当たりに、濃い魚介のうま味が美味だ

 感染防止への配慮から、カウンターはわずか5席、テーブル席も18席にとどめた。記者が訪れた際、店内では4人の客が食事していた。

 時刻は午後7時過ぎ。杉沼さんがラストオーダーを取りに席を周る。東京都は飲食店に対し、午後8時での閉店を要請しているためだ。「え?もう?」と驚いている客もいた。

「ありがとうございました!」

 杉沼さんら従業員の方々に笑顔で見送られ、店を後にする。先ほどまで明るかった他の店は、最後の客を送り出したのか、そのほとんどが照明を小さくしている。閉店作業をしていたある飲食店の男性従業員は「ここら辺はすっかり“弁当屋”ばかりになっちゃって」と笑い飛ばした。店の前には、売れ残った大量の弁当が積まれている。

「まあでも、やれることやって、頑張るしかないね」

 男性は再び、淡々と閉店作業を始めた。(AERA dot.編集部/井上啓太)

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