「コロナDV」や「コロナ虐待」の増加が懸念されている。「実際に暴力を受けて育った子たちがどんな人生を歩むのか伝えたい」と語るのは、漫画家のあらいぴろよさんだ。物心ついたころから実父による暴力、人格否定、面前DV、性的虐待を受け、その体験を描いたコミック・エッセイ『虐待父がようやく死んだ』(竹書房)が話題だ。似たような境遇で育った人たちから「死んでホッとする親はいる」「同じなのでわかる」と共感の声が寄せられている。
あれほど憎んでいた親が死ぬとき、子どもはどんな思いを抱えるのか――。「父親の死は終わりじゃなかった」と、あらいさんは振り返る。そんな“地獄”からどうやって抜け出したのか、改めて聞いた。
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――『虐待父がようやく死んだ』を描いた理由を教えてください。
最近、虐待に関するニュースを目にする機会が増えていますが、暴力の内容ばかりが報じられ、実際に暴力を受けて育った子たちがその後どんな人生を歩むのかはなかなか伝わっていないと感じます。
漫画『“隠れビッチ”やってました』で描いた恋愛依存も父から受けた暴力や暴言が背景にありますが、そこでは虐待の描写は抑えたので、今作ではそこをきちんと描いて伝えていきたいと思いました。
そうして描き始めたのですが、自分の中で答えが出ていたはずのことに改めて悩んだり、自分自身のことを振り返ったり、苦しい作業でした。どんな背景があるにせよ、私は良い人間ではなかったので。恋愛依存もそうですが、職場の同僚から相談されても「私のほうがつらいんだよ」と思ってしまい「なんだそんなこと?」と上から目線で突き放してしまったり。そういった行動が虐待による影響なのか、本来の自分なのかという線引きはとても難しかったです。
親の影響力のヤバさを知ったつもりでいたころ、息子(現在5才)が2才ぐらいまでの話ですが、良い親にならなければと何でも100%を目指していて、1人で育てられないなんて親失格だと思い込み、一時保育にも預けられない、なんてこともありました。そうして育児に力を入れすぎてしまい、余裕がなくてすぐカッとなってしまったり、とても不安定でした。ひどいときは泣いている子を部屋に置き、自分はベランダで耳をふさいでしゃがみこんで……。
これじゃダメだと保育園に通わせるようになって生活が少し落ち着いてから、やっと気持ちが切り替わってきました。良い母にはなれなくても、機嫌のいい母になろうと。そして私が落ち着いたら息子も落ち着きいていきました。育児とは、何か特別なことをするのではなく、安心できる場所を用意することが大切なのだとやっと知りました。
父のがんが見つかって、1年半の闘病の末に亡くなったのは、そんな最中でした。