でも、本当の理由は別にありました。父ががんになってから、母は「お父さんが好き」と言い出したんです。「ん? 何それ」ってなりましたね(笑)。自分たちの仲間だと思っていたのに、そんなことなかった。あの父を選んだこと、一度は離婚したのに再婚したこと、どんなに暴力を振るわれても結局は父のもと離れないこと。ずっと引っかかっていたのは、やっぱり考えすぎじゃなかったんだ!と、点と点が線でつながったようでした。もちろんお金も理由の一つだっただろうけど、「お金」と言うことで自分も子どもも納得させていたんだと思います。子どもは稼げないから、そう言われると従うしかないですから。

 父が闘病した1年半、母は蜜月のように楽しんでいました。新婚時代から親と同居していて、2人きりの時間が無かったらしく、ずっとそれを求めていた、と……。知るか!と思いますよね。結局、私達より父のことが好きだった。それならそうと初めから言ってほしかった。そうすれば罪悪感なんて背負わなくてよかったし、「そうか、母もクソだったんだ」ともっと早い段階で思えたのに。結局好きな男の傍から離れたくないけど、子どもたちも手放したくない、という母のワガママでしかなかったんです。私の30年を返してくれと思いました。

『虐待父がようやく死んだ』(あらいぴろよ著、竹書房)、第17話「父の死は希望」より一部抜粋
『虐待父がようやく死んだ』(あらいぴろよ著、竹書房)、第17話「父の死は希望」より一部抜粋

 私の母は理想の家庭に固執し、父とそれを築きたかったわけですが、本当にお金が問題だという家庭もあるかもしれないし、DVで心が壊れているかもしれない。“普通”から外れたくない、ライフスタイルを変えたくない、世間体が気になるなど離れられない理由は人それぞれに何かあると思うんです。その結果、子どもを守っているように見えて、自分のことを優先している親がいることに気づきました。

 虐待が起きる家庭は親のどちらかだけが歪んでいるのではなく、どちらもなんらかの形で歪んでいるのです。

――この漫画を通して、伝えたいことは。

 私と似たような境遇の人たちが、これからどうやって生きるかということももちろん大事なんですが、虐待があるからそんな人間が生まれてくるんです。もとを断つには、今子育てをしている人、親の立場にある人に「親の影響はすごいんだ」と伝えたいです。

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毎日ごちそうじゃなくていい! コロナ禍の親に伝えたいこと