だが悪いことばかりではない。得られた教訓も多かったようだ。
酒井さん 「人生頑張ってもうまくいかないことがあると学べたことです。現役時代も浪人時代も自分なりに正しい努力の仕方はしましたが、それでも結局、合格は果たせませんでした。そのかわり、大学に入ってからの生活はすごく楽しかったんです。人生にはしっかりと無駄な時間がある。それは人によって数年の場合もあれば、一生の場合もあるんだという想像力を持つことができるようになりました」
竹末さん 「自分と向き合う時間が取れたことです。予備校があるとはいえ、浪人生活は1年の過ごし方が基本的には自由。机に向かって集中する時間もあれば、ふと空想したりものを考える時間もあって、後者の中に自分と対話するチャンスがたくさんありました」
鈴木さん 「とがった言い方になりますが『自分に向き合う』というのは、要するに自分を正当化し続けることでもあると思うんです。そのために、いわゆる学歴主義でない価値観を持った人と話すことも一つの道。『学歴が全てではない』ことを学びながら、自分をアップデートして進んで行くのがいいと思います」
最高峰の大学を目指しながら、多浪を経てそれが全てではないと気付いたメンバーもいた。生きる上で学歴は必要かどうかについて、今はどう考えるか。
竹末さん 「学習への意欲度によっても変わってくると思います。学習への興味が薄い人たちにとって、学歴はあまり大切ではない。それよりもすぐ使える実学的な能力を身につけてしまった方がいいと思います。もし学ぶことが好きで、学問に携わる仕事に就きたいと考えているのなら、名のある大学に行っておいた方が、世間が注目してくれる可能性は高い。それが生計を立てることにつながるなら、大学名を利用するのはアリだと思います」
杉山さん 「僕は逆に、学歴社会の仕組みは学習意欲の薄い人たちにこそ必要だと思います。東大に入って改めて感じることですが、学ぶ意欲が高い人というのはそもそも自学自習できてしまう。でもそうでない人は、一度学習意欲を失うと、そのまま落ちていってしまうことが多い。そんな人たちが受験勉強を通じて人並みの学力になり、東大や京大に入るというプロセスは、元の状態を考えると素晴らしいこと。多浪とは、いわばその極致の状態だと思っています」