本書の主人公は、証券業界のガリバー「野村証券」の礎を築いた野村徳七である。

 徳七は経営者でありながら、相場師だった。3回の仕手戦を制し巨額の富を得たが、その生き様は極端だった。勝負の際はすべての財産を賭け、負ければ「死」という状態まで自らを追い込んだ。

 徳七は「骨の髄から独断専行」「異例の、異様な経営者」だった。一方で明治の時代に「株式は科学」だと考え、経済情勢や各社の収益状況を予測、分析する「調査部」をいち早く設けた。“命がけ”の裏には、先見の明と自信があったのも事実だ。

 著者は同社の取締役を務めた人物だが、創業者を遠慮せずに書き下している。逆にそれが徳七の特異な人物像を浮かび上がらせている。ただこの作品、人物評伝としてだけではなく、小説としてもかなり興味深い。(若林理央)

週刊朝日  2020年3月20日号