BOOKSTANDがお届けする「本屋大賞2020」ノミネート全10作の紹介。今回、取り上げるのは青柳碧人(あおやぎ・あいと)著『むかしむかしあるところに、死体がありました。』です。
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「桃太郎」「浦島太郎」「一寸法師」――。日本人なら一度は読んだことがあるだろう昔ばなし。いまや大手通信会社のCMでも物語の設定を生かしたパロディがお馴染みですが、本書もまた昔ばなしをミステリーにアレンジしたユニークな作品です。
数学ミステリー『浜村渚の計算ノート』シリーズなどで知られる著者が、日本の代表的な昔ばなし5作を「一寸法師の不在証明」「花咲か死者伝言」「つるの倒叙(とうじょ)がえし」「密室龍宮城」「絶海の鬼ヶ島」に改題。いかにも推理小説を思わせるタイトルです。そして、その内容もまた本格的。
例えば「つるの倒叙がえし」。もとになった「つるの恩返し」は、全国でさまざまな形で伝承されていますが、一般的には、貧しい老夫婦のもとに、罠から助けられたつるが人間の女性の姿で現れ、機織りで恩返しをするという話です。女性からの忠告「決して部屋を覗(のぞ)いてはいけません」というセリフは誰もがよく知るところでしょう。
本書では、設定が少し変わります。しんしんと雪が降る日、両親を亡くした弥兵衛(やへえ)の家に、父親に金を貸していた庄屋が訪れます。両親の悪口を言われたうえに、借金を返さないなら村から追放すると脅された弥兵衛は、庄屋を鍬(くわ)で殺しています。
庄屋の死体を機織り機が置いてある部屋の奥にある襖(ふすま)で閉ざされた部屋に隠した弥兵衛。直後、「こつこつこつ」と戸口が叩かれました。戸を開けてみると、そこには「つう」と名乗る女性の姿が......。罠にかかった鶴のつうを助けてくれた弥兵衛のもとへ、恩返しのためにやってきたのです。
つうは弥兵衛に「機織りをしているときは決して中を覗かないでください」と忠告。弥兵衛もまた「何があっても、あの襖を開けて中を覗くことはなんねえぞ」と警告したのです。
庄屋が行方不明となり、村人たちは懸命に捜索しましたが発見できずにいました。弥兵衛の家の襖で閉ざされた奥の部屋でさえも......。弥兵衛は庄屋から借金をしていたことから、村人から疑いの目を向けられましたが、あるはずの遺体はこつ然と消えていたのです。一体、どんなトリックを使ったのでしょうか?
ヒントはタイトルにある「倒叙」という言葉。ドラマ『古畑任三郎』のように、ストーリーの最初から犯人や犯行の様子が描写されることを意味します。最後まで読むと、タイトルの意味はもちろん、伏線や誤解に気づくことになり、もう一度初めから読み返したくなるほどの面白さ。驚愕のラストは必見です。
本書は、「一寸法師の不在証明」はアリバイ崩し、「花咲か死者伝言」はダイイングメッセージ、「密室龍宮城」は密室殺人、「絶海の鬼ヶ島」はクローズド・サークル(外界と連絡手段がつかない場所に閉じ込められた状況)というように、ミステリー要素が満載。ファン垂涎の1冊といえるでしょう。
よく知っているはずの昔ばなしが、新たな解釈で現代によみがえる新鮮な驚きと感動を味わえること間違いなしです。
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