■災害の教訓は風化させてはいけないが、ビジネス面ではイメージ刷新をめざす
震災から9年も経つと、メディアで取り上げられる機会は当然ながら減る。しかし地域の人々の生活は続いていく。
「災害に対する教訓は風化させてはいけないし、震災で仕事や家族をなくした人が今も戦っていることは心のどこかに留めておいてほしい。でも津波や原発と紐付いた震災のイメージは風化していくべきなんです。人々が新しいものに取り組んでいくには、いつまでも『かわいそうだね』と言われていることがいいとは限らない。むしろメディアには新しい面を取り上げてもらうようにしていかないと」
ミガキイチゴのユーザーには山元町復興のストーリーを強く認識している層もいるが、「いちびこ」にケーキやスムージーを楽しみに来る大半の人は知らないという。
「僕が“GRA”として発信するときは震災のことに触れます。でも“ミガキイチゴ”の広告で謳うのは『すばらしいテクノロジーによって生まれたおいしいイチゴです』で十分。震災のことを思いながらケーキを食べても、気持ちが沈んじゃいますから」
“被災地で作られたイチゴ”ではなく、まず“おいしそうなイチゴ”として目に入り、味に感動した人が「どこでどうやって作られたんだろう?」と調べて「そんな背景があったんだ」と知る。そういう順番でいい。
■変化には時間がかかるからこそ全力で、粛々と
この9年で、栽培から販売までを一貫して行うGRAモデルは確立できたため、あとはさらなる販路開拓、カフェの展開、海外輸出、海外生産を精度良く、粛々と加速していくだけだ、と岩佐氏は言う。
「でもイチゴは親株を植えてから収穫を終えるまでに約20カ月かかります。どれだけ急いでも、変革や拡大には絶対的に時間がかかる。言いかえると、僕らだけでがんばっても限界があります。だから地域にたくさんの仲間を作り、みんなで成果も失敗も含めて農業ノウハウを共有することで、よりスピード感のある成長をしていきたい。それが成功したときには、世界のどこであってもマネができないし追いつくこともできない、圧倒的なインパクトを持った事業になると信じています」
ヒトを軸にした復興・地方創生は、営みは、これからも続いていく。(文/飯田一史)