「録音もレタリングも個人のクリエイティビティーが入るので、何倍も楽しめるんです。新しくカセットに触れた人たちが、どう咀嚼して自分たちのカルチャーにするのかも興味があります」(松崎さん)
「見たり触ったり」で記憶する
秋田市にある「のら珈琲」は、コーヒーとカセットを提供する喫茶店だ。店主の森幸司さん(36)はCD世代だが、親のラジカセに音楽を落として聴くことが大好きだった。森さんは言う。
「当時は音の良い悪いはわからなかったけれど、カセットのすべてを閉じ込めるような感覚が好きなんです。このカセットに曲が入っている、というのが安心感になるんです」
音楽好きが高じて、インディーレーベルを立ち上げた。以前はCDを出していたが、いまではリリースはカセットだけ。これまで40組のアーティストをカセットでリリースしてきた。
「制作コストが安いのもありますが、CDは一度パソコンに取り込むと盤面を忘れられてしまう。それがなんとなく違うな、と思い始めたのがカセットに切り替えた理由です」(森さん)
見たり触ったりできるからこそ音楽が記憶される。単に、耳で聴くだけではないから楽しい。そう感じさせるのがカセットやレコードなどのアナログが再燃している理由ともいえる。
「サマージャム」のテープ
そのカセットの魅力が伝わる歌詞で時代を超えて愛されている曲がある。日本のヒップホップグループ、スチャダラパーの「サマージャム’95」という曲だ。
リリースは、文字どおり1995年。夏のダラダラした情景を歌詞にしながらも、絶妙なゆるさと郷愁感あるトラックで、発売から20年以上が経っても大人気。彼らがフェスやライブで歌えば、発売当時に生まれていないであろう若い世代の観客が、一緒に歌い出すほどだ。
タイトルの「サマージャム」とは、曲のなかに出てくる、夏に聴く用に自分でつくったテープの名前。好きな曲をテープに録音して、それを車で聴く。助手席にのせた女性に、そのテープをイイと思われたい──そんな夏の記憶がラップにのる。
メンバーのANIさん(52)が言う。