東欧のボスニア・ヘルツェゴビナにいくつかある火力発電所の燃料として炭鉱が存在し、その運搬用に蒸気機関車(SL)が活躍しているという。東欧の現役SLの雄姿を撮影すべく出かけることにした。
【Dobrave(ドブラヴェ)炭鉱】
20両の貨車を牽引する迫力満点の33形蒸気機関車
トゥズラ市から10キロ南にあるドブラヴェ炭鉱は竪坑。ここに着くと野良犬がたむろしている。どの犬も人に慣れていた。なでても嫌がらない。犬たちは餌目当てにスタッフを待っていた。一匹をひいきにすると周りにいる犬がやきもちを焼き、けんかを始めてしまう。ドブラヴェ炭鉱に関わるスタッフの詰め所には絶えず犬がうろついていた。
ここでヤードをまたぐ大きなベルトコンベヤーには圧倒される。ベルトコンベヤーで運ばれていく石炭は洗浄され、濡れたままの状態で徐々に貨車に積まれる。流し落とす音がうるさい。満載した貨車は20両の一編成にまとめられるのだが、その貨車を出し入れし引くのをスタンダードゲージ(1475ミリ)の33形SLが担当している。満載した貨車を引き出す33形は貨車の重さで空転を繰り返して、ものすごいドラフト音を響かせていた。トゥズラ発電所からやってくるディーゼル機関車が空の貨車を引いてやってきた。空の貨車を側線に置き隣に並んでいる石炭を満載した貨車を引いて発電所に戻って行った。
炭鉱の構内はベルトコンベヤーのうなる音とディーゼル機関車と蒸気機関車の汽笛が鳴り響き、犬の遠ぼえも加わり、いつ訪れても騒がしい雰囲気は変わらなかった。
【Sikulje(シクリエ)炭鉱】
坑内の貨車入れ替えで活躍する33形蒸気機関車
トゥズラ市北東にあるシクリエ炭鉱、広大な草原の中に竪坑のヤードが突如見えてくる。近くには露天掘りの炭鉱があり石炭運搬のトラックが頻繁に走っていた。トラックで輸送した石炭も、いったんシクリエ炭鉱に運ばれ貨車に積み直される。炭鉱に続く線路や道路も細かい石炭殻や粉が散っていて真っ黒だった。
専用の道路は詰め所までトラックで渋滞していた。詰め所のわきには巨大な検量計がありトラックごと載せられ検量していく。一台ずつパソコンに記録、ドライバーに検量結果の控え書を渡す。これがギャランティーになるようだ。検量を終えた石炭は専用の石炭坑口に空けられ貨車に積まれる。シクリエ炭鉱にも33形SLが稼働しており、坑内での貨車の入れ替え運用に従事している。
発電所はその日によって電力の生産量が決まり、夏季よりも冬季のほうが電力を必要とするのでフル稼働だ。電気の需要に応じて発電所の稼働効率も異なり、燃料の石炭の採掘にも左右する。採掘がなければ鉄道輸送の運行も休止になってしまう。産業運用鉄道では毎度のことで、幾度か撮影ができない日もあった。
写真・文=都築雅人
※『アサヒカメラ』2020年2月号より抜粋。本誌では「番外編」として石灰石運搬用リフトやサラエボの路面電車などもレポートしている。