無機質な超高層ビルが立ち並ぶ、というのがこれまでの東京のイメージだったが、東京五輪を前に、そのイメージを払拭するような開発が進んでいる。AERA 2020年1月20日号では、建築家の隈研吾さんとジャーナリストの清野由美さんが「東京の顔」を選出。東京の変化に迫った。
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ここにきて猛進撃を見せるのが三井不動産だ。
三菱地所の本拠が丸の内なら、三井のそれは「三井本館」が位置する日本橋。五輪の東京開催とともに、日本橋の首都高速道路地下化がクローズアップされているが、その話題ともからめて一帯の再生を狙う。
04年開業の「COREDO(コレド)日本橋」から始まった三井の商業施設は、昨秋オープンの「COREDO室町テラス」まで5館に増えた。ビルの谷間には徳川家康も詣でたという「福徳神社」の社殿を新築再興。現代の街並みに江戸の味わいを対照させて、そぞろ歩きを誘う。
コレド室町テラスでは、大屋根を設けた1階入り口のオープンテラスが人々のいこいの場所となっている。そこから一歩足を進めると「日本銀行本店」の重厚な建築が視界に入り、明治時代の東京の威光にはっとする。
「ゼロ年代前半の汐留の再開発では、旧新橋駅の遺構がものすごく不遇な扱われ方で残念でしたが、最近の都市再開発では、歴史の継承や、建築・景観資産への敬意が格段に高まってきたことも感じます」(隈さん)
同じく三井不動産による「東京ミッドタウン日比谷」でも、眼下に広がる日比谷公園の緑と、皇居堀端の水面を、ビル中層階の大型ウィンドーから劇的に取り込み、圧巻の東京を見せる。
三菱の丸の内、三井の日本橋に限らない。「六本木ヒルズ」で21世紀の超高層競争の口火を切った森ビルは現在、創業の地を舞台に「虎ノ門ヒルズ」の再開発を進める。
「個人のライフスタイルでは『ネイバーフッド』と呼ばれる地元感を大切にすることが、すでに定着しています。大企業もよそで拡大するのではなく、地元を持つことがブランドの維持にもつながると気付いたのでしょう」(同)
企業による「地元感」を代表するエリアが品川区の天王洲だ。
1950年にこの地で創業した寺田倉庫は、倉庫業に付加価値を付けることで成長してきた。付加価値とは、同社が土地を持つ運河沿いの倉庫群を、現代的なウォーターフロントにして、文化的な発信力を高めること。