35ミリ判フィルム用のレンズは、その登場から50ミリが標準とされてきた。それは、ズームレンズが主流になった今でも変わりはしない。それはなぜか。ここでは標準レンズについてさまざまな角度から検証していく。
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標準レンズは、パースペクティブ(遠近感)や被写界深度が自然なこと、絞りによるコントロールでさまざまな描写を見せられるレンズとして便利なことこの上ない。この特性を知ることで、交換レンズ購入選択の一つの基準となる。被写体を大きく写すなら被写体に近寄り、周辺の要素を取り入れたいなら被写体から離れる。
絞り込み被写界深度を深くして広角っぽく、絞りを開いて被写界深度を浅くすれば望遠ふうに見せられる。
ベテランの方々には釈迦に説法だろうが、この当たり前の特性を活用することが、標準レンズ使いこなしの第一歩になる。
こう書くともっともらしいのだが、その昔交換レンズはとても高額で、気軽にいろいろな焦点距離のレンズをそろえられるものではなかったから、標準レンズ1本だけで風景もポートレートもスナップも身の回り、森羅万象のすべてを写さねばならなかったというのが実情だった。
一方で、この基本中の基本を幾度となく繰り返すことで、撮影者は画角を徹底してアタマに入れ、ファインダーをのぞかなくても、撮影範囲を予測し、絞りによる被写界深度のコントロールを学習し、擬似的な交換レンズとして活用しようとした。
それでも表現できない場面に遭遇した時、はじめて他の交換レンズの購入に夢を馳せたのである。
■レンズの画角によるクセをいかに抑えるか
個人的には、写真を見た時に使用レンズの焦点距離が推測できないことがすべてのレンズの使いこなしの基本だと考えている。写真を見ただけではどんな焦点距離のレンズで撮ったかわからず、Exifデータを見てやっと焦点距離を知る。これがレンズのうまい使いこなしではないだろうか。レンズのクセや特性を抑制することが写真表現の原点であり、自然な雰囲気の写真に仕上げることが基本といえる。
多くの人はここで考えるだろう。ならば基準となる焦点距離が50ミリレンズとは限らないのではないかと。そのとおり、先述のように50ミリはある意味ではメーカーからのお仕着せである。自分の好みや視角に近い画角のレンズを基準となるレンズとして定義してもこれはかまわない。