一方、杉本さんの作品には極めて高い技術に支えられた「美」と、古代から現代を貫く視野がある。例えば彼が設計した香川県・直島の護王神社は清々(すがすが)しい美しさを持つが、掘り下げていけば古神道の知識に基づく現代の「古墳」だと気づく。
なぜこのようなものを創るに至ったのか。本書にはその思考プロセスがみっちりと詰まっている。
コロナ禍の今は日本に長期滞在中。なかなかNYには戻れないが、時間をかけてものを考え、2冊本も書いたのでそれはそれで良かったという。
「人はジェット機で慌ただしく飛び回るようにできていないということがわかった(笑)。人間が長年散々なことをしてきたから、コロナによるパンデミックだって自然が持つ自動調整機能なのかと思うほど。100年後には2メートル海面が上昇するというけど、それならマンハッタンだってなくなってしまうでしょう。主語を人間ではなく地球や自然にするなら、実は人類が滅びた方が良いくらいじゃないの」
杉本さんは絶望的なことを明るく笑いながら言った。これが彼の真骨頂なのだ。
(ライター・千葉望)
※AERA 2022年7月4日号