●「任侠」への好意が薄れ恐怖が前面に出る市民たち

「うん…、やっぱり行きたいかといえば、興味半分で行ってみたいけど、今のご時世、それは言うたらあかんのやろうね。行きたいゆうのんも、言うたらあかんのやろうね」

 グループのリーダー格の少年が話すと、ほかの児童たちも頷く。昨年のように、山口組が配る菓子の質と量の豪勢さを喜ぶ、祭りならではの高揚感溢れる空気感はそこにはない。

 そのときだった。「ドーン」と公園の遊具から大きな音がした。周囲の大人も含めて皆、その音がした方向をとっさに見る。グループの少年のひとりが言った。「えっ、発砲事件か?」ーー。

 ヤクザと共生する町・神戸では、山口組といえば、古くは「戦後すぐの混乱期、不良外国人から神戸市民を守った」任侠であり、近くでは「阪神大震災のとき、食料品や生活用品を配った」地元の名士と、ややもすれば好意的に捉える向きが今でもある。

 しかし、それは口にするのも憚る時代へと、令和に入った今年を境に舵が切られた。

 一方で神戸市民たちは、非合法と力、すなわち暴力を背景としたヤクザへの恐れも当然持っている。ハロウィン前、総本部を校区とする神戸市立六甲小学校教頭に話を聞いたときのことだ。山口組のハロウィン実施の可能性があることから、どのような対応を行うのかと聞いてみた。

「例年と同じくパトロールに当たります…」

 ところが、それは学校がリーダーシップをとって行うものなのかどうか、具体的な話はなかなかしてくれなかった。おそらく、学校がやると明確に言い切れば報復のターゲットにされかねないからだろう。もっとも、そんな暴力団の組事務所を校区内に抱える学校の先生たちの苦悩も、今年で終わりになりそうだ。兵庫県警関係者が語る。

「今回の使用制限を契機に、暴力団が一切の活動をできない状況にまで追い込むつもりだ」

 今や、衰退著しい暴力団。ヤクザとは「侠気」という伝統芸を伝える芸人に過ぎないという声もあるが、山口組は今、市民に頼られる「任侠」としての顔を急速に失いつつある。ハロウィン中止は、それを象徴するような出来事だったのではないだろうか。

(秋山謙一郎:フリージャーナリスト)