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 おいら、ポン太(写真左端)。ネコ科ネコ属の雄だ。

 この家のおばちゃんの厄介になるようになって何年かたつ。最初は怖くて庭木の陰から様子をうかがっていた。そのうちにおばちゃんがおいらに気付いた。その日から庭の隅に食べ物が置いてあるようになった。

 うれしかった。大急ぎで食べて大急ぎで姿を消す。こんな日が続いた。

 しかしおばちゃんと目が合うと、「怖がらなくていいんだよ。ゆっくりお食べ」と言っているように感じた。

 だけど、おいらは油断禁物と思っていた。賢いからね。おばちゃんは辛抱強く食べ物を置いてくれた。

 何カ月かたったころだろう。かたくななおいらの心が少しずつほぐれていった。そして、庭に堂々と姿を現してもいいかなと思うようになった。

 おばちゃんには近くに住む小さな女の子の孫がいて、おいらに用のフードをお土産に持ってきてくれるようになった。

 おいらは泣いた。泣きながらそのフードを食べた。欲を言ってはいけないが、おばちゃんは食事の残りか、飼っているさくらという犬のフードしか置いてくれなかったからね。これは内緒。

 おばちゃんはニワトリを2羽飼っている。その鳥がときどき小屋から出て庭で遊ぶ。おいらがそれをやっつけないか心配する人がいた。そんなことをすれば、おいらの運命がどうなるかは百も承知だ。賢いからね。距離をおいて眺めているよ。

 おばちゃんは時々おいらに聞く。「どこで生まれたの? 乳離れするまではママと一緒だったのでしょ。本当の名前ってあるの? あったら知りたいなあ」

 毛の色がタヌキに似ているからって、おばちゃんがつけてくれた名前、ポン太。気に入っているよ。大切なのは今。そしてこれからなんだ。昔のことは忘れたよ。

(小木厚代さん 静岡県/72歳/主婦)

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