ナチス政権のもと、数百万のユダヤ人をガス室送りにしたアイヒマンが、ヒトラーの命令に唯々諾々と従うだけの凡庸な人物だったという話は有名だ。そうした「怖い凡人」を切り口として、気鋭の精神科医である著者が、千葉県野田市の児童虐待傷害致死事件、東芝の粉飾決算、スルガ銀行の不正融資問題、日大アメフト部の悪質タックル問題などを鮮やかに読み解いていく。
終身雇用制度が根強く残り、同調圧力や「空気」がものごとを決定する日本は、大量のアイヒマンを生み出す土壌となっている。自己保身のために平気で人を踏みつけるこうした人物は、職場でもおなじみの存在だ。
隣の席の人が、あるいはあなた自身がアイヒマンなのかもしれない。恐るべき思考停止の罠から身をかわせるかどうかは、おのおのの心がけにかかっている。(平山瑞穂)
※週刊朝日 2019年9月13日号