著者は生体高分子学などが専門だが、「趣味の研究」として、クモやミノムシなど糸を出す虫を四十数年にわたって調べつづけている。この本を読むと、純粋な好奇心に裏打ちされた研究者の心意気が手に取るように伝わってくる。「なぜ?」という問いを、あくまで突きつめていくのだ。
その関心が向かうのは、主として虫が出す糸そのもの。クモなどが命綱として使う糸が、自重を支えられるだけの強度を持つ糸を2本束ねたもので、仮に1本が切れても助かる仕組みになっているという「“2”の安全則」を発見した功績は大きい。
クモやミノムシなどが糸で揚力を得て、風に乗って長距離を移動するなど、興味ある話題も満載。こうした糸を利用して、地球にやさしいすぐれた素材を遺伝子工学で量産する展望などについても触れている。(平山瑞穂)
※週刊朝日 2019年8月9日号