ある殺人事件における加害者/被害者の、それぞれ血をひいた息子たち。本来なら交わることのない二人の対決が、剣道を通じて描かれる。昨年デビューした著者の単行本2作目。

 加害者側の息子・岳は、世間から隠れるようにひっそりと生きてきたが、あるきっかけから剣道に出会う。事件から15年後、恩人の願いから一度だけ全日本剣道選手権・京都府予選への出場を決意する。そこで決勝の相手として現れたのは、岳の父に殺された警察官の息子・和馬だった──。

 和馬もまた、父の死がその後の人生に深い影を落としていた。作中では、二人の心理の揺れ動きが描かれ、竹刀に込められた二人の心の声も丹念に表現される。サスペンスとしての面白さはもちろん、確かな軸を持った人間たちのドラマとしても十分に堪能できる一冊だ。(若林 良)

週刊朝日  2019年6月28日号