箸には一膳ずつ紙がまかれている(筆者撮影)
箸には一膳ずつ紙がまかれている(筆者撮影)

 味はもちろんだが、とにかくホスピタリティが徹底しているのが「勝本」だ。年配者や女性でも入りやすいようにと、高級割烹のような店内では真っ白な白衣(調理服)を着た従業員がおもてなしをする。席に着けば、まずおしぼりが出てくる。箸の先には一膳ずつ紙が巻いてあり、松村さんがホテル時代に身につけた「お客様をお迎えする」という気持ちがあらゆる部分に表れている。

「店のしつらえは、味と同じぐらい重要です。料理は五感を使って楽しむもの。味覚以外にも気を配らなくては一流とは言えません」(松村さん)

 カウンターを見渡すと全員女性という日もあるという。店構えをしっかりすることで、客層を広げることにもつながっているのだ。

黒木さんがセットで注文する豚ほぐし、白飯(筆者撮影)
黒木さんがセットで注文する豚ほぐし、白飯(筆者撮影)

「くろ喜」の黒木さんは、松村さんを目標にしている。

「どこを取っても本当に上質ですよね。お店のしつらえはもちろん、仕事の一つひとつが本当にきれいです。エッジの効いたネギの切り方、振り柚子、ご飯はピカピカで湯気まで出ています。流行り廃りに左右されない、しっかりしたものを提供されています。ラーメン業界出身でないのに『超』ラーメンを出している。すごい方です」(黒木さん)

 松村さんも黒木さんの食材への向き合い方を高く評価している。

「調味料や麺を主役に置かず、旬の素材を主役にしてラーメンに落とし込むというのは、今までのラーメンにない考え方です。まさにラーメンを『料理』として捉えています。これまでのラーメン文化を超えるものを作っていると思います」(松村さん)

 それぞれの道で料理を極めた二人が作るラーメンは、常識にとらわれない新たな風をラーメン界に吹かせてくれている。(ラーメンライター・井手隊長)

※「くろ喜」の「喜」は「七」を三つ並べたものです。

○井手隊長(いでたいちょう)/大学3年生からラーメンの食べ歩きを始めて18年。当時からノートに感想を書きため、現在はブログやSNS、ネット番組で情報を発信。イベントMCやコンテストの審査員、コメンテーターとしてメディアにも出演する。

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