試行錯誤の結果、松村さんは「煮干」を極めようと考えた。「永福町大勝軒」など東京の煮干ラーメンの名店を食べ歩き、煮干の使い方を学んでいった。東京で食べ歩く中で、勝負すべき場所が京都ではなく東京であることにも気づく。
「東京のラーメンはレベルが違います。わざわざ電車を乗り継いで、並んでまで食べたいラーメンがたくさんある。ラーメンで勝負するなら、東京しかないと思いましたね」(松村さん)
2年半の準備期間を経て、15年3月、水道橋に「中華そば 勝本」をオープンする。名古屋コーチンに煮干や削り節を合わせて作った本格的な中華そばは、濃厚ながらも調和のとれた上品な一杯だ。麺は老舗の浅草開化楼が特注麺を作ってくれた。「勝本」という店名は、松村さんが敬愛する俳優・渡辺謙さんが主演映画「The Last Samurai」で演じた「勝元盛次」の役名から拝借した。武士の精神でラーメンと向き合いたいという気持ちと、東京で「勝」って日本一になるという決意が込められている。
満を辞してのオープンだったが、繁盛したのは最初の1週間だけだった。オープン景気が過ぎると客足は一気に引き、日の売り上げが10万円に届かない日が続いた。味の不安定さが原因だった。
レシピを何度も見直し、味のブレをなくしていった。味が安定するようになると売り上げも上がり、1年後には午後4時になっても行列が生まれるまでになった。
16年2月には神保町に「神田 勝本」をオープン。1号店よりもさらにあっさりとしたラーメンとつけ麺を提供している。
「くろ喜」の黒木さんは、「神田 勝本」の味玉清湯(しょうゆ)そばと豚ほぐし、白飯をいつもセットで注文するという。スープは鶏に焼きアゴ、平子煮干、片口鰯、宗田鰹、胡麻鯖に醤油ダレ、柚子がほのかに香る。じんわり美味しく奥行きもあり、具のどれもがバランスよく整っている。何の違和感もなくすっと入ってくる美味しさで、素晴らしい一杯だ。ご飯はつやつやに光る魚沼産こしひかり。出汁に使った鰹節などで作ったふりかけも付いてきて、豚ほぐしとともにご飯に乗せて食べるのがまた絶品なのだ。「清湯」と書いて「しょうゆ」と読ませる演出もニクい。