私は定年で退職してそろそろ5年になります。再雇用も受けず、特に趣味もなく、日がな一日をダラダラ過ごし、まあいろいろあった嫁さんと30年一緒に暮らしています。
嫁さんのほうはジムに通ったり近所の奥さんたちとカラオケに興じたり、楽しくやっているみたいです。
その日もいつもどおり寝そべってテレビの刑事ドラマを見ていると、横手の庭のほうでガサガサ音がします。目をやると、どこから迷い込んだか、やせ細った生後数週間ほどの子猫が悲しげな目で私をじっと見つめていました。
テレビを見ているのを邪魔されたくなくて無視していたのですが、その子は動こうとしませんでした。
仕方なくガラス戸を開けると、駆け寄ってきて体を擦りつけてきました。これが私とミュー(写真、1歳、雌)の出会いです。
その日、ジムから帰ってきた嫁さんは驚いたようですが、早く病院に連れていったら?と、飼ってもいいような口ぶりです。
病院での検査の結果は異常なく、ホッとしました。帰り道、かばんに入れてバイクに乗せ、スタートしたとたん、かばんのチャックがゆるんでいたのか、逃げ出してしまいました。
あちこち捜しましたが見つからず、そのうち雨も降り出しました。半分諦めていたら、数時間後になんと、さっき迷い込んできた庭でずぶ濡れになってミャーミャー鳴いていました。
あれから9カ月ほどになりますが、やんちゃな子で、何度か脱走を試みたり、ソファを引っかいたりして暴れまわっています。あげくに疲れ果てて眠りこけている姿を見ると、なんとも癒やされます。
定年後の変化のなかった日常が一匹の子猫によって慌ただしくも活気のある日々に変わりました。
[黒木良一さん 大阪府/65歳/無職]
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