愛知県豊橋市にある「久遠チョコレート」。2014年にオープンし、いまや全国に50以上の拠点を持つ人気店だ。約570人の従業員のうち6割は心や体に障害がある──。連載「シネマ×SDGs」の35回目は、多様な人々が「しっかり稼ぐことができる」職場作りを目指してきた代表・夏目浩次さんを20年追い続ける監督によるドキュメンタリー「チョコレートな人々」の鈴木祐司監督に話を聞いた。
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はじまりは2002年に夏目浩次さんと会ったことです。彼は大学でバリアフリー建築を学んでいたとき、障害のある人たちが1カ月働いても健常者の1日分ほどの給料しかもらえない現実を知り「それはおかしいんじゃないか」と彼らの働く場所を作り、社会を変えようとしていた。「障害のある方たちとパン屋をやる、自分がモデルになって新しい福祉の形を作りたい」と真剣に話す姿を見て、追いかけたいと思いました。
僕も同じような問題意識を持っていたけれど行動できない。でもこの人ならできる。ならば自分にできるのは伝えることだと、休みの日にカメラを持って通い、撮り続けました。パン屋以外の事業にも挑戦し試行錯誤するなかで、彼は13年にトップショコラティエの野口和男さんと出会ったんです。
チョコレート作りは難しそうですが、きちんと分量を量り、時間をかけてテンパリングするなど地道な工程を積むことで良い商品ができる。なにより失敗したら、温め直してまたやり直せます。フルーツを刻む、箱を作るなど適材適所に配置されたスタッフは驚くほどのポテンシャルをみせてくれます。僕もおそらく夏目さんも、彼らの成長が一番うれしくモチベーションになっているんだと思います。
夏目さんの動機には怒りや意地もある。頑固な面もあるけれど、20年でいろんな人と関わり、人に協力を求められるようになり一人一人理解者を増やしていった。彼自身も変わったんだと思います。
取材を始めてから20年、いまだに「衛生面は大丈夫なの?」などマイナスの声もある。一方で若い人たちが、「え、このチョコそういう方々が作っているんですか? かっこいい!」と言ってくれる。社会の空気は確実に変化していると希望を感じています。(取材/文・中村千晶)
※AERA 2023年1月16日号