集団に「空気」が醸成され、強力な同調圧力になったとき、その空気を破壊するにはどうすればいいのか。40年読み継がれる日本人論の決定版、山本七平氏の『「空気」の研究』では、空気を打破する4つの起点が書かれている。会社、学校、ネット…あらゆる集団に巣食う「日本病」を打破するヒントを紹介する。15万部のベストセラー『「超」入門 失敗の本質』の著者・鈴木博毅氏の新刊、『「超」入門 空気の研究』から、内容の一部を特別公開する。
●空気に操られないための「4つの起点」とは?
これまで見てきたように、日本人の思考と行動は「空気」という見えない圧力によって支配されています。山本七平氏はそれを「妖怪」と呼びました。
日本のあらゆる集団に現れ、多くの意思決定を操作しながら、過去には戦争や企業の不正、学校でのいじめなどにも猛威を振るってきました。
では、集団の空気に操られず、個が空気を壊すにはどうすればいいのでしょうか。『「空気」の研究』では完全に整理されていませんが、同書で指摘されている空気を破壊するための4つの起点をまとめてみましょう。
【空気打破の4つの起点】
[1]空気の相対化
[2]閉鎖された劇場の破壊
[3]空気を断ち切る思考の自由
[4]流れに対抗する根本主義(ファンダメンタリズム)
この4つをそれぞれ順に解説していきます。
●世の中の「隠れた前提」を見抜く
――[1]空気の相対化
空気とはすなわち「前提」です。山本氏は、まず空気を相対化せよとしています。
まず最初に空気を対立概念で把握する“空気(プネウマ)の相対化”が要請されるはずである(*1)。
「空気の相対化」というのは、少しイメージするのが難しいかもしれません。例として、次の文章を相対化してみましょう。
(例文)「水不足のため、この地域では新たなダムの建設が必要とされている」
この文章には、隠れた前提が複数あります。例えば、水不足が本当であるか否か、また仮に水不足だとしても、その解決策がダム建設で本当に正しいのかなどが挙げられます。
しかし、水不足だと判断する条件が不明な上に、事実の確認はなされていません。また、水不足を解消できる、「他の選択肢」を一切無視した前提だと言えます。
AならばBである、という前提は、二つの基本的なポイントに疑問を持つべきです。
【疑問 1】「本当に現状はAなのか?」
【疑問 2】「Aの場合でも、B以外の選択肢もあるのでは?」
先の文章は、成立条件を明示しないのに、隠れた前提が絶対化されているのです。
空気の相対化は、歴史を学び、歴史観的に物事を判断することでも養われます。歴史上、AならばBであると一時的に絶対視されたことが、時代の変化で、あっけなく覆っていることが多々あるからです。
「あっけなく覆る」「みんなが一時的に正しいと盲信したことが、実は大きな間違いだった」事例を、数多く学ぶほど、前提を相対化する思考が身に付きます。
この世界に溢れている、あらゆる前提を健全に疑う習慣を身に付けることです。○○はAである、といかにも当然のように提示される前提が実際に真実であるか否かを、その前提が成立する条件、しない条件を基に常に考えるべきなのです。
(注)
*1 山本七平『「空気」の研究』(文春文庫)P.71