蝶よ花よと育てた15歳のシャムミックスの高齢猫と、まったり平和に暮らしていたところ、昨年夏に突然嵐のごとく現れたのが黒猫クロチ(雄、たぶん5歳ぐらい)である。
夜間にとどろく奇妙なうなり声に、猫同士のケンカかと思いきや、庭に出たら顔は狸、尻尾はシマシマの動物が突如現れ、驚愕したのは言うまでもない。その動物(後にアライグマと判明)が黒い物体を狙って何度も戻るのを必死で追い払って保護したら、当時ウロウロしていた盲目で痩せっぽちの野良猫だった。下半身に瀕死の重傷を負い、見るも無残な姿であった。
翌朝、害獣被害の野良猫の入院は、近所の獣医から全て断られた。だが、友人が野良猫の避妊を大量に引き受けた獣医が隣区にいると知らせてくれ、ギリギリで命がつながった。問題はそこから。私は猫を増やす気はなかったし、その猫は助かる見込みも限りなく薄い。先の見えない介護を引き受けたようなものだった。
そんな人間の苦悩をよそに、黒猫は徐々に回復の兆しを見せた。野生の生命力は本当に大したものである。
1カ月の入院で、えぐれた傷口の筋肉は盛り上がってきた。そして退院。猫のオシメ替えだけはうまくなった。今後もおしっこが出にくいなど、泌尿器系の障害が完治する見込みはない。
お尻をなめると血尿が出てしまうので、一生、保護用のカラーは外せないかもしれない(写真)。
それでもクロチは元気に跳びはね、すごい勢いで柵をよじ登るやんちゃで甘えん坊の家猫さんになった。
そんな姿を見ていると、生きるってこういうことだよね、とつくづく思う。つらくてもアライグマにかじられるよりマシと思えば、私ももう少し頑張れそう。猫の恩返しってこういうことかな?と最近気づいた。
(吉原美穂子さん 東京都/52歳/会社員)
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