問題2 脳に与える影響がまったくわからない
ここに潜在的な懸念がある。あなたは炭酸飲料を飲んだとしよう。舌は糖分またはダイエット甘味料の甘さを感じる(舌は、甘さが何からきているのかを判断することはできない)。
そして、こんなふうに言いながら、「甘味」シグナルを視床下部に送る。「ほら、糖負荷がやってくるよ、代謝の用意をして」。すると視床下部はこんなふうに言いながら迷走神経を通じて膵臓にシグナルを送る。「糖負荷がやってくるよ、余分なインスリンを分泌する用意をして」。
だが、もし「甘味」シグナルがダイエット甘味料から来ていたのだとしたら、いくら待っても糖分はやってこないことになる。するとどうなるだろうか? 視床下部は、こんなふうに言うだろうか?「まあ仕方ないな。次の食事がやってくるまで、ぶらぶらしてるよ」。それとも、「なんてこった、余分な糖がやって来る用意をしてたのに。そんなら、探してくるよ」。脳が糖分の欠乏を埋め合わせるかどうかはわからない。
問題3 腸内細菌の構成を変えてしまう可能性がある
ダイエット甘味料が腸内細菌の構成を変えてしまう懸念がある。そうなると、炎症が起き、内臓脂肪の貯蔵が進む。
問題4 糖分への依存を強める可能性がある
ダイエット甘味料が糖分依存症において、どんな役割を果たすかはわかっていない。ショ糖(砂糖)の場合、ドーパミン受容体のダウンレギュレーションが生じると、次に同じ効果を得るためにより多くの砂糖をとらなければならなくなり、ポジティブ・フィードバック・システムが築かれて摂取を増進させてしまう。同じことは、ダイエット甘味料についても見られる。
そのため、もしかしたら、ダイエット甘味料も生化学的に同じ依存性を助長し、それがさらに糖分を求める行動に駆り立てる可能性がある。そうなると、たとえ今食べているものに糖分が含まれていなかったとしても、次は必ず糖分をとるようになってしまうだろう。
問題5 一度認可されると検証されない
ダイエット甘味料の安全性の問題は非常に複雑だ。米国食品医薬品局の公式見解は、「認可されたなら安全だ」というもの。だが、本当にそうだろうか? アスパルテームに関する懸念はいまだに消えていない。市販されてからもう30年以上も経つというのに。
そして、もう1つの側面がある。砂糖業界には、状況をあいまいにしたい理由が山のようにあるのだ。甘味料市場の支配権をおびやかすダイエット甘味料に対し、砂糖業界はたとえ相手がどんなものであっても、禁じ手なしのタックルをかます。彼らは、サッカリンが市場に登場して以来、あらゆる甘味料を攻撃してきた。
[1] R. Dhingra et al. (2007) “Soft Drink Consumption and Risk of Developing Cardiometabolic Risk Factors and the Metabolic Syndrome in Middle-Aged Adults in the Community,” Circulation, 116 (5): 480-88.
[2] M. Y. Pepino et al. (2011) “Non-Nutritive Sweeteners, Energy Balance, and Glucose Homeostasis,” Current Opinion in Clinical Nutrition and Metabolic Care, 14 (4): 391-5.
[3] C. Gardner et al. (2012) “Nonnutritive Sweeteners: Current Use and Health Perspectives,” Circulation, 126 (4): 509-19.
(本原稿は書籍『果糖中毒』からの抜粋です)
著者について
ロバート・H・ラスティグ(Robert H. Lustig)
1957年ニューヨーク生まれ。カリフォルニア大学サンフランシスコ校小児科教授。マサチューセッツ工科大学卒業後、コーネル大学医学部で医学士号を取得。2013年にはカリフォルニア大学ヘイスティングス・ロースクールで法律学修士号(MSL)も取得。小児内分泌学会肥満対策委員会議長や内分泌学会肥満対策委員会委員などを歴任。「果糖はアルコールに匹敵する毒性がある」と指摘した講義のYouTube動画「Sugar: The Bitter Truth(砂糖の苦い真実)」は777万回以上視聴されるほど大きな話題になった。
中里京子(なかざと・きょうこ、訳者)
翻訳家。訳書に『依存症ビジネス』(ダイヤモンド社)、『ハチはなぜ大量死したのか』(文藝春秋)、『不死細胞ヒーラ』(講談社)、『ファルマゲドン』(みすず書房)、『チャップリン自伝』(新潮社)ほか。