●「リーダーはクルマ」、「社員は歩行者」
年収6000万円の内田社長(仮名)も、「負けることができるリーダー」です。
内田社長のオフィスを訪ねたとき、私は意外な光景に出くわしました。社長が、年配の女性社員に「叱られていた」のです。
「社長! 経費を使いすぎですよ! なんですか、この銀座のクラブの領収書は!」
内田社長が銀座のクラブを利用したのは、決して遊びではありません。仕事のため、取引先をもてなすためです。けれど、内田社長は言い訳めいたことは一切言わず、「いやぁ、すみません」と頭を下げたのです。
私が「どうして言い返さないのですか?」と尋ねると、内田社長は「山下さん、リーダーは、最後は、負けておいたほうがいいんですよ」と教えてくださいました。
「山下さん、私は『リーダーはクルマ』で、『社員は歩行者』だと思っているのです。歩行者が『赤信号』で横断しているからといって、ひいていいわけではありません。たとえ歩行者が赤信号を無視していたとしても、力のあるクルマのほうが止まるのが正しい。そうすれば、事故が起きることはありません。どんな状況でも、事故が起きたら、100%、力が強い側の責任になるのですから」
安藤名誉会長や内田社長に、私が「オーラ」を感じなかった(空気のような感じを受けた)のは、彼らが「身を引く」ことを、完全にマスターしていた達人だったからです。
達人は「個人の勝ち負け」にこだわりません。こだわっているのは、「会社として強いチームをつくること」です。そのためには、ときに部下に花を持たせ、リーダーが負ける必要があります。
リーダーは、「自分はクルマである」ことを常に意識する。意見がぶつかりそうになったら、自分がブレーキをかけて衝突を回避する。そうすれば、無意味な敵をつくらずにすむでしょう。「金持ちケンカせず」ということわざがありますが、達人クラスのリーダーは、「達人ケンカせず」なのです。つまり「年収1億円ケンカせず」ということです。
周囲から反感を買って無意味に敵をつくっているようでは、圧倒的な成果を生み出すリーダーになることは到底できないのです。
山下誠司:(株)アースホールディングス取締役/(株)サンクチュアリ代表取締役