「苦労して微積分学ぶ必要ある?」
こんな投稿が6月14日の朝日新聞に載った。社会に出てつかう機会もないのに高校で教えなくてもいいじゃないか、というのである。
投稿した獣医さんに、クリスティン・ダール著『北欧式眠くならない数学の本』をおすすめしたい。スウェーデンで出版された子ども向けの数学読み物だ。
フラクタル、素数、ゴールドバッハの予想、オイラーの多面体定理。目次に並ぶ言葉を見てめまいがしそう。ところが本文を読み進めると「そういうことだったのか」と腑に落ちる。この「わかった!」感が気持ちいい。残念ながら微積分については書かれていないけれども。
本書の特徴は、数学を図にして考えるということ。正方形や正三角形を並べたり、コンパスで模様を描いたり。セーターの網目模様も吊り橋の設計も、ベースにあるのは数学的な考え方である。
「数学の扉を開くキーワード──それはパターンです」と著者はいう。森羅万象のなかからパターン、規則、法則性を発見するのが数学。その意味で、数学は哲学と似ている。
著者は数学教師を目指したが大学を中退。数学が日常生活とはかかわりのない机上の空論のように思えたからだという。その後、ジャーナリストの養成大学で学び、編集者となった。「なぜ数学を学ぶのか」という問いが、この本の根底にある。
実際に紙と鉛筆を用意して、書きながら読むと楽しい。子ども向けの数学入門書であるけれども、もしかして認知症予防になるんじゃないかという気もしてきた。
※週刊朝日 2018年8月10日号
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