貿易を拡大していくことは、その国の利益になります。しかし、むかしから、貿易をめぐる国家間の争いは絶えません。一つの理由は、輸入が輸出を大幅にうわ回って貿易の赤字が拡大すると国が貧しくなると考えられたことです。
(中略)安価な輸入品が国内にたくさん入ってくると、国内産業を保護するために、国による輸入規制が行われることがあります。すると相手国が対抗措置をとり、これに対してまた報復するというように、報復合戦が繰り返されます。一国の輸入規制に他国もまた輸入規制で応じると、貿易そのものがしだいに縮小し、ときには戦争に発展していくこともあります。第二次世界大戦の原因の一つは、このような貿易紛争にあったといわれています。
戦後、世界は行き過ぎた保護貿易の反省の上に立ち、「IMF/GATT体制」をスタートさせ、コツコツと貿易の自由化に取り組んできました(現在はWTOが継承)。
仮に世界のGDP(国内総生産)合計を「日本500兆円+米国1000兆円」とします。1500兆円が2カ国から成る世界の総消費量です。このとき日本のGDPの内訳を国内消費450兆円+外需(貿易黒字)50兆円とします(この50兆円は米国の貿易赤字)。米国は1000兆円+50兆円=1050兆円の消費をしているわけです。
世界経済が10%成長し(GDP日本550兆円+米国1100兆円=1650兆円)、日本の貿易黒字が増え55兆円になれば、米国はGDP1100兆円+貿易赤字分55兆円=1155兆円の消費をしていることになります。米国は、貿易赤字が増えれば増えるほど、より多くの消費をしていることになるのです。逆に日本は、総生産分の総消費をせずに節約し、その分をせっせと米国に輸出していることになります。このどこに「貿易赤字はGDPを減らし、雇用を奪う」という論調の入る余地があるのでしょうか?
米国が総生産以上の消費を楽しめるのは、貿易赤字と同額の投資を世界から受け入れているからです。世界中がドル預金や、米国株・債券および不動産の購入をしている(これを米国から見ると対外負債といいます。米国は世界一の対外負債国ですが、この負債は、世界からの米国投資のことです)ので、米国は世界一の消費大国になれるのです。
以上は、GDPの三面等価理論(総生産=総所得=総消費)、ISバランス論(貿易黒字額=海外投資額)として、高校の教材で詳細に扱われている内容です。つまり、中高の公民科教材を丁寧に学習すれば、「貿易黒字は儲け、赤字は損」のようなトンデモ論は、出てくるはずがないのです。
中高の教科書は、大学で経済学を教えている先生が記述しています。ですから、大学で教えられている経済学の背骨・本質部分がギュッと詰まって書かれています。
「円高になるのはなぜ?」「金融緩和って何?」「アベノミクスはこれまでの政策とどこが違うの?」――こういったニュースや新聞に出てくる話を読み解くには、中高の公民科教科書の知識があれば十分なのです。
拙著は、中高の教材から学ぶことによって「経済学とはどんなものなのか」を分厚い教科書を始めから終わりまで読まなくても、わかるようになっています。