今年、米寿を迎える思想家の著者は、近代を徹底的に問い直してきた。19編のエッセイを収めた本書にもその姿勢は貫かれている。

 ひとつひとつのエッセイの表面的なテーマは異なるが、社会が経済に振り回される状況を憂う。ただ、文明か未開か、進歩か後退かという単純な構図では論じない。科学の進歩を肯定しながら、真の仲間を作ることが可能かと投げかける。第2次大戦や東日本大震災、そして本震災を熊本市民として経験した者の言葉だけに重い。

 著者は編集者であり、教師でもあったが、職業人化することを拒否し、「私はまず人間でありたかった」と語る。では人間とは何か。「私の場合、一生本を読みものを書くということ」という。人間として生きていますか。著者の問いかけが聞こえてくる。

週刊朝日  2018年6月29日号