保育士による園児への暴行が各地で相次いで発覚している。不適切な保育が起こる主な背景には、保育士の子どもに対する人権意識の欠如があるという。AERA 2022年12月26日号の記事を紹介する。
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「事件化されて良かったと思う」
と話すのは、公立保育園で保育士として働く愛知県の30代女性だ。勤務先ではベテラン保育士による“危うい保育”にハラハラすることがある。現在、お遊戯会に向けての練習中だが、2歳児クラスを担当するベテラン保育士は1日20分以上も立ったまま歌わせる練習を課す。途中で飽きる子には「ごそごそしない!」と大きな声で叱る。しかし、取材に応じた保育士は「ごそごそするのも無理はない」と話す。
昼寝時間に寝ない子がいた時には「寝ないなら布団いらないね!」と、トイレの床に布団を運んだことも。運ばれた子は泣き出し、泣き疲れてクラスの床で眠った。別の日には着替えがうまくできない子の腕を引っ張り「保育園の子ならこれくらいできないと! できないなら下のクラスに戻りなさい!」と、0歳児クラスに連れていった。保護者からクレームが入った日には、その子どもに向かい「なんでお母さんにあんなふうに言ったの?」と詰め寄った。子どもをうまくまとめられない若手保育士に対し「私が言うと○○ちゃんは言うことを聞く。先生は子どもになめられているからだ」と注意する場面もあった。
「恐怖を植え付けなくてもクラスをまとめる方法はあり、脅しではない方法でまとめていくのがプロの保育士だと思います。厄介なベテランの場合、厳しい指導で長年クラスをまとめてきたため、間違った保育をしているという認識が薄いようです」
■氷山の一角に過ぎない
お遊戯会で子どもが上手にできると親もそうした先生に対し高評価をすることもある。だが、親はそのお行儀のよさがどうやって作られたものかを知らない。
芋づる式に明らかとなった不適切保育を氷山の一角、と指摘する声は多い。保育園を考える親の会(渡邊寛子代表)は今月12日、厚生労働省と内閣府に不適切保育防止のための緊急要望を提出。保育施設の施設長を含めた職員や自治体の担当者らを対象に啓発を行うことや、内部告発や保護者の訴えを受ける窓口を自治体に設けることなど8項目を要望した。渡邊代表は不適切保育の報道が相次いでいることについて「氷山の一角に過ぎない。子どもたちを守るために思い切った対策が必要」と話す。親の会にも、たたく、突き飛ばすなどの暴力のほか、おやつを取り上げる、給食を無理やり食べさせるといった事例の相談が寄せられているという。