落語家・春風亭一之輔さんが週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「まだ見ぬ景色」。
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日本代表がベスト8をかけたクロアチア戦。私は福井での独演会の後、軽い打ち上げをしてからホテルの一室で観戦。試合開始から15分までは覚えているのだが、気づいたらテレビには谷原章介が映っている。
時刻は朝8時過ぎ。ベッドから下りると足裏に激痛。何かが突き刺さっている。床一面ミックスナッツ。ゆうべ何があった?
食べかけのペヤング。飲みかけの500ミリのハイボール缶。そしてまたまた最後まで見られなかったW杯。どうやら『まだ見ぬ景色』のレベルが私だけ違う。
その日はそのまま長野に移動。「中川村」という村で落語会だ。「という村」は失礼か。でも行ったことも無ければ、聞いたことも無い「中川村」。初めての土地で落語を聞いてもらうのは嬉しいじゃないか。喜び勇んで「中川村」で検索。『日本で最も美しい村 中川村』とある。なかなか大きな「看板」を掲げる中川村。他人事ながらちょっと心配。写真には確かに美しい景色が広がっている。どうやら駒ケ根の近くらしい。そういえば先日駒ケ根の落語会で「こんど中川に来るんですね、一之輔さん」「あぁ、そうでしたね(忘れてた)」「よく、あんなとこまで行きますねー!」と駒ケ根の人に驚かれたのだった。いや、あなた方だってご近所にお住まいじゃないですか? とにかく『日本で最も美しい村』が気になる。
福井から特急しらさぎで米原へ。東海道新幹線に乗り換え、名古屋。名古屋から特急しなのでJR岡谷駅。ここまで順調に行って、4時間半かかった。私の腰と背中とケツが倦怠期の3ピースバンドのように「理由なんか『方向性の違い』でいいだろ!」と解散したがっている。中川村へは岡谷から車で70分。『日本で最も美しい村』はそう易々とは拝ませてくれないのだ。
谷間を進むにつれ、辺りは真っ暗。「着きました」。タクシーの運転手さんに促されホールに到着。