出会い系サイトって援助交際のための場じゃないんですか。花田菜々子『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』(すごいタイトル!)はそんなイメージを変える本である。

 キッカケは夫との別居だった。心はすさむ。友だちもいない。そんなとき、たまたま読んでいた本で知った出会い系サイト「X」。「知らない人と30分だけ会って、話してみる」というサービスに引かれた著者は、おそるおそる登録し、迷った末、プロフィール欄に書いてみた。〈変わった本屋の店長をしています。1万冊を超える膨大な記憶データの中から、今のあなたにぴったりな本を1冊選んでおすすめさせていただきます〉

 著者は当時(2013年)、33歳。本と雑貨を扱うチェーン店・ヴィレッジヴァンガードの店長で、知らない人に本をすすめるのは修行くらいの気持ちだった。

 最初に会った2人は案の定セックス目的だったが、原因は自分にあった。職業欄は「セクシー書店員」。募集コメント欄にはセクシーなぞなぞ。おまけに不思議ちゃん風の顔写真。冷や汗たらり。〈ただのヤバいやつじゃないか〉

 プロフィール欄を修正した後は人生が少しずつ変わりはじめた。

 本を紹介しようとはじめた活動の報告だから、もちろんたくさんの書名が登場する。が、それ以上に興味深いのは多くの人との出会いから、彼女自身が変わっていく過程である。IT系の仕事をするノマドな感じの男性、就職したての女性、フリーランスの映像作家、コーチングを生業とする女性、恋人のDVから逃れてきた女子。

 そうやって人に会いまくった結果、対面相手が50人を超す頃には〈「知らない人と話す」ということのハードルがどんどん下がって、ほぼゼロになっていた〉。

 それ、すごくない? 本の紹介は目的ではなく、彼女にとってはコミュニケーションの最強のツールだったのだ。〈私だって誰かの役に立ちたいのだ〉。一風変わった書評の本? いや、前向きで今風な自分探しの本でしょう。

週刊朝日  2018年5月18日号