天才漫才師と呼ばれながら、51歳で死去した横山やすし。豪快で無頼、酒好きのイメージがあるが、息子である著者の目に映った父は、根暗で酒に弱く、寂しがり屋。日々、必死に「横山やすし」を演じる姿だった。

 とはいえ、「らしさ」は家庭でも垣間見えた。心配のあまりに、偶然を装って修学旅行先にいたり、自分の漫才の出番の合間に息子を飛行機で迎えにいったり。

 家のルールも独特で、殺人より嘘の方が罪が重いと子どもに嘘を絶対許さなかった。殺人は、やむにやまれぬ理由がある場合が大半だが、嘘は保身のためであるからとか。納得してしまいそうだが、本人は愛人に会うために平気で嘘をつくから子どもはたまらない。

 死後22年。これまでも彼の評伝はあったが、息子が初めて語る素顔は新鮮だ。

週刊朝日  2018年4月27日号