人気テレビ番組の「アメトーーク!」には、“読書芸人”という企画があり、芥川賞作家になる前の又吉直樹など本好きの芸人がそれぞれの推薦本を紹介してきた。そこで取りあげられた本は確実に売り上げを伸ばすとあって、書店も放送後に店頭の陳列を変えるほど影響力をもっている。
眉村卓『妻に捧げた1778話』は昨年11月、同企画でカズレーザーが取りあげ、「15年ぶりに泣いた」とコメント。冷笑的な芸風の彼に似つかわしくない感想が反響を呼び、2004年に発売されたこの本が俄然、新たな読者を増やしている。
末期がんを宣告された妻のために、1日1話ショートショートを書く。原稿用紙3枚以上、病人の神経を逆なでしない題材で、固有名詞はなるべく使わず、どこかで日常とつながっている、商業誌に載ってもおかしくないレベルの作品を──作家として難儀な制約を自ら課し、眉村は1997年7月16日から書きはじめる。そして1日たりとも途切れることなく書きつづけ、妻が亡くなった2002年5月28日、遺体がもどった自宅で最終回となる1778話目を書いた。この本にはその中の19篇と結婚生活をふり返るエッセイが収まり、人と人とが共に生きていく要諦を伝えている。
〈生きる根幹、めざす方向が同じでありさえすれば、それでいいのである〉
とはいえ、「生きる根幹、めざす方向」が同じ相手と夫婦になるのは難しい。だからこそ眉村にとって妻・悦子は、文字どおり絶対的な妻だった。その思いが最終回の最終行を眉村に書かせ、10余年ぶりに再読した私の胸をまた、つまらせた。
※週刊朝日 2018年4月6日号