●世界中がいまブロックチェーンに注目している

 ブロックチェーン技術の影響力を思えば、優秀な人たちが続々とこの世界に惹きつけられているのもうなずける。

 ベンジャミン・ロースキーはニューヨーク金融サービス局の局長という地位を捨て、ブロックチェーン技術のアドバイザリーを専門とする会社を立ち上げた。彼は言う。

「今後5年か10年で、金融システムは今とは似ても似つかないものになっているかもしれません。僕はその変化に関わっていたいんです」

 JPモルガンで投資銀行部門のCFOやグローバル・コモディティーズ部長を歴任したブライス・マスターズも、ブロックチェーン技術にフォーカスしたスタートアップを立ち上げて業界を変革しようとしている。2015年10月のブルームバーグマーケッツ誌は「ブロックチェーンがすべてだ」という見出しで彼女の事業を特集した。エコノミスト誌も同じ時期に「信頼のマシン」という特集を組み、「信頼の長い鎖」であるブロックチェーンが「経済のしくみを変えてしまうかもしれない」とコメントしている。

 大手の金融機関も、こぞって超一流の技術者をかき集め、ブロックチェーンの調査に取り組んでいる。安全でスムーズでリアルタイムな取引というアイデアは銀行にとって大きな魅力だ。ただし、オープン化、分散化、新たな通貨というアイデアには顔をしかめる向きも多い。実際、金融業界ではブロックチェーンを「分散台帳技術」と呼び替え、クローズドなチェーンを構築する動きが進んでいる。ブロックチェーン技術の都合のいいところだけを取り入れ、限られた人しか利用できない形で運用しようというわけだ。

 投資家たちもブロックチェーンに目を光らせる。2014年と2015年だけで10億ドル以上の資金がブロックチェーンのスタートアップに流れ込み、その勢いは1年で倍増した。マーク・アンドリーセンはワシントン・ポスト紙のインタビューで次のように語っている。

「20年後にはここに座って、いまインターネットのことを語るような感じでブロックチェーンのことを語っているでしょうね」

 ふさわしいのかを模索しているところだ。ロシアなどではビットコインの使用が厳しく規制されているが、通貨危機を経験したアルゼンチンのような国ではかなり積極的な動きも見られる。賢明な国々はすでに多額の資金をつぎ込んで、中央銀行制度や通貨のしくみ、さらには政府や民主主義のあり方まで変えてしまうかもしれないブロックチェーンという技術を理解しようと努めている。カナダ銀行のキャロライン・ウィルキンス上級副総裁は、各国中央銀行が通貨の電子化を真剣に検討すべき時期に入っていると語った。イングランド銀行のチーフエコノミストを務めるアンドリュー・ホールデンも、電子通貨の導入をイギリス政府に進言している。

 これだけブロックチェーンが盛り上がれば、当然ながら投機家や犯罪者も集まってくる。ビットコインと聞いて、まずマウントゴックスの破綻事件を思い浮かべた人も少なくないだろう。武器や麻薬を売買する闇サイト「シルクロード」の決済手段にビットコインが使われていたことも話題になった。ビットコイン市場はかなり荒っぽい値動きをしているし、残高が一握りの人に集中しているという問題もある。2013年の調査では、たった937人で世界のビットコインの半分を保有しているという結果が出た。この状況は変わりつつあるとはいえ、まだ十分ではない。

 どうすればポルノや詐欺のイメージを脱却して、本当の豊かさを生みだせるのか?

 まず言っておきたいのだが、僕たちが注目しているのはビットコインという通貨そのものではない。もっとずっと大きなものだ。ビットコインはいまだ投機的な資産にすぎないけれど、それを支える技術プラットフォームには計り知れないパワーと可能性が眠っている。

 もちろん、ビットコインや暗号通貨が取るに足りないと言っているのではない。暗号通貨の存在は革命の必須要素だ。ブロックチェーンの本質は何よりも、価値の(とくにお金の)交換にあるのだから。