世界中がいま注目する、ブロックチェーンとはいったい何なのか?(※写真はイメージ)
世界中がいま注目する、ブロックチェーンとはいったい何なのか?(※写真はイメージ)

「世界で最も影響力のある経営思想家」トップ50人を隔年で選出するThinkers50。最新の2017年版で2位にランキングされたのが、ドン・タプスコットだ。著書『ブロックチェーン・レボリューション』は、2016年の発売ながら、いまだに日本を含む世界中でベストセラーとなっている。

 その理由は、仮想通貨の盛り上がりや、3メガバンクで合計3万人を超える大規模なリストラが発表されるなど、ブロックチェーンによって起こされる変革が次々と現実のものになっていることにある。これからも『ブロックチェーン・レボリューション』に書かれたことは多数実現していくだろう。いま最も読むべき本として、改めて同書の一部を公開する。

●「インターネット上では、誰もきみを犬だとは思わないさ」

 テクノロジー界の魔人(ジーニー)が、ふたたび魔法のランプから解き放たれたようだ。

 いつ誰が何のために召喚したのか、正確なことはわからない。だが魔人はすでにそこにいる。今回の任務は、経済のしくみをがらりと書き換え、人の営みを新たな形に再構築することだ。僕たちが望みさえすれば、すぐにでも願いは叶う。

 どういうことかって?
 説明しよう。

 インターネットは最初の40年で、Eメールやウェブ、ドットコム企業、ソーシャルメディア、モバイル、ビッグデータ、クラウド、IoT(Internet of Things、モノのインターネット)などの便利な道具を運んできた。おかげで情報交換のコストが大幅に削減され、検索やコラボレーションがぐんとラクになった。新たなメディアやエンターテインメントの参入が容易になり、店舗や組織のあり方が変わり、革新的なネットベンチャーが誕生した。

 さらにセンサー技術によって、財布や衣服、自動車、建物、都市、それに生物までもがインターネットに接続されようとしている。やがてログインという概念が消滅し、僕たちの生活すべてがインターネット・テクノロジーに満たされる時代が遠からずやってくるはずだ。

 全体としてみれば、インターネットは僕たちに、多くのポジティブな変化を与えてくれたといえるだろう。

 ただし、インターネットにできることには、まだ限界がある。

 ザ・ニューヨーカー誌に掲載されたピーター・スタイナーの有名な風刺画をご存知だろうか。パソコンに向かう犬が、もう1匹の犬に対してこう教えてやる場面だ。

「インターネット上では、誰もきみを犬だとは思わないさ」

 この風刺画が掲載されたのは1993年のことだが、オンラインでのアイデンティティの問題はいまだに解決されていない。インターネット上で安全に取引するためには、銀行や政府などの第三者に問い合わせて相手が信用に足るかどうかを教えてもらわなくてはならない。あいだに立つ銀行や政府は、僕たちのデータを集め、プライバシーを侵害し、それを商売や安全保障のために利用している。

 しかも、このインターネット時代にあって、いまだに銀行口座すら持てない人が世界には25億人も存在している。誰もが平等につながりあう時代がやってくるはずだったのに、現実には金と力のある人がますます肥えていくばかりだ。残念ながら今のインターネットは、プライバシーの破壊を埋め合わせるほどの豊かさを生んでいるとは言いがたい。

 テクノロジーは良くも悪くも、すべてを大きく変えてきた。インターネットは人の権利をこれまでにない形で守り、同時に侵害する手段になった。オンラインのコミュニケーションとショッピングの爆発的な普及は生活を便利にしたが、ネット犯罪の危険性を急激に高めた。半導体の集積密度が18~24ヵ月で倍増するというムーアの法則は、その成果を利用して犯罪に手を染める「ムーアの無法者」たちの力をも倍増させた。スパムやなりすまし、フィッシング、盗聴、クラッキング、ネットいじめ、さらにはデータを人質にとって身代金を要求する「データナッパー(誘拐犯)」まで現れる始末だ。

次のページ
インターネットに足りなかったのは…