
日本には連携する「下地」があると考えています。実は日本は20年以上、経済複雑性指標(ECI)で世界1位です。これは、どれだけ多くの産業を持っているか、新しい製品を生み出せる力を表す指標です。例えば、農業生産しか、あるいは資源の売買しか行わない国のECIは低い。日本は技術力を持った中小企業も多く、さまざまな種類の製品を作ることができます。
特に注目するのは宇宙産業です。宇宙ビジネスベンチャー「アクセルスペース」は、中村友哉CEO、宮下直己CTOによって立ち上げられました。小型人工衛星の開発や打ち上げを行い、衛星から撮影した画像データを森林保全や水産資源の保護に活用します。

私の専門でもある半導体産業については提言したいことがあります。1980年代、日本は世界の半導体シェアの約5割を誇っていました。が、メモリからの脱却ができず、品質保持を優先したため、安価に生産する受託製造(ファウンドリー)ビジネスに負けました。経営側の判断ミスだったと考えています。以降、日本では衰退の一途をたどりましたが、半導体産業はこれからも基幹産業のひとつであることに変わりはない。日本企業は、再び、最先端の研究開発・製造をするという志を持つべきです。
人材育成も進めてほしいと思います。メルカリの山田進太郎CEOは、私財を投じて「STEM(理系)女子奨学助成金」という奨学金制度を立ち上げました。理系の女性学生が少ないという問題意識を持ち、女性の技術者の育成に投資しています。
「人に寄りそう」もキーワードになるでしょう。東京工業大学学士課程3年の早川尚吾さんはAI音声合成プラットフォーム「CoeFont」を立ち上げました。声を失った人の昔の音声記録を入力すると、まるでその人がしゃべっているかのように再現できます。vivolaの角田夕香里CEOは、女性のライフステージに合わせて健康課題や不妊治療をAIで見守るサービスを提供しています。
豊かさを意味する「ウェルビーイング」の考え方で、社会がよりよい方向に進むことを願います。
■益一哉さんが選ぶ10人
雨宮智浩 東京大准教授 メタバース技術を牽引
本村真人 東京工業大教授 組み込みAI集積回路を開発
中村友哉、宮下直己 小型衛星ベンチャー「アクセルスペース」
山田進太郎 メルカリCEO 技術者養成に理解
早川尚吾 東京工業大情報理工学院3年 AI音声合成プラットフォーム「CoeFont」創業
角田夕香里 「vivola」CEO
澤田和明 豊橋技術科学大教授 グリーンイノベーションを目指したセンサ開発
西宏章 慶應大教授 IoTプラットフォームの国際標準化を牽引
大屋雄裕 慶應大教授 メタバース利活用の政策を法制度から牽引
(構成/編集部・井上有紀子)
※AERA 2023年1月2日-9日合併号