なんと今年の年間ベストセラー・ランキングで堂々のトップ10入り。今泉忠明監修『ざんねんないきもの事典』。副題は「おもしろい!進化のふしぎ」で、特にふざけているわけではないのだが、しかし「ざんねん」といわれてもなあ。好きで「ざんねん」になったわけでもないしなあ。

 じゃあ何が「ざんねん」かといえば、たとえば世界最大の鳥であるダチョウ。飛べないこと? いやいや、それは脳みそが小さいこと。頭までの高さは2.4メートル、体重は150キロ。目玉だって直径5センチで60グラムもあるのに、脳みそはたった40グラムで目玉より軽い。〈実際ダチョウはかなり記憶力が悪いそうです〉って、ほっとけや。

 あるいは絶滅の危機にあるサイ。工芸品や漢方薬の材料になる立派な角がついてるが、あれの成分は髪の毛や爪と同じケラチンで〈皮ふの一部がかたくなったもの。つまり、ただのいぼです〉。漢方薬にしても〈そのへんのおじさんの爪をせんじて飲むのと大差ありません〉って、大差あるやろ。

 こんな調子で、〈クラゲは口と肛門がいっしょ〉とか、〈ヒトデは胃袋を口から出して食事する〉とか、〈トガリネズミは3時間食べないだけでうえ死にする〉とか、〈カゲロウの成虫の寿命は2時間〉とか「べつにいいじゃん」な事例が続々と登場する。〈はちみつはじつはミツバチのゲロ〉に至っては、そりゃあ蜂蜜はミツバチが体内に貯めた花の蜜を吐き戻したものだから「ゲロ」だろうけど、それをいうならヒトが食べてる肉や魚は全部動物の死体だぞ。

 でもまあ、子ども向けの本ですしね。ちょっと見下した表現が受ける時代なんだろうね。私が唯一疑問なのは〈アライグマは食べ物をあらわない〉という件で、飼育下のアライグマが洗うような動作をするのは〈ヒマすぎてやることがないから〉というのだが、そりゃ違う。彼らは手のひらの感触を楽しんでいるのだよ。私はかつてアライグマを飼っていたが、神社で水をやろうとしたら、ひしゃくに小石を入れて洗いだし、往生したもん。ざんねんな余談ですけど。

週刊朝日  2017年12月29日号